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太陽生命保険株式会社
人事部 内務教育課 課長代理 内田 祥平様
太陽生命保険は、生保業界でいち早く65歳定年を導入したほか、早くから少数精鋭を掲げ若い年次を積極的に管理職へ登用するなど、先進的な人事制度を実践してきました。
2020年からは上司と部下の「1on1ミーティング」を導入し、若手社員のキャリアプランを個別に考えることはもちろん、部下の悩みや希望を吸い上げて、業務遂行力の向上につなげる試みを行っています。
こうした社内施策の成果を高めるために、管理職向けに行った1on1の専門家による研修の内容と効用についてお聞きしました。
(文/藤原 友亮(トリコナッジ) 撮影/平瀬 拓)
若手社員の離職原因につながるコミュニケーション・ロス
——まず貴社が1on1ミーティングを導入した経緯を教えてください
内田 祥平様(以下、内田):コロナ禍の中で、当社が課題として考えていたのは若手社員の育成と定着でした。その課題の原因を様々考える中で、コロナ禍で非対面の仕事が増えたことによる「所属内でのコミュニケーション・ロス」がその一つであると仮説を立てたのです。
一昔前、時間外労働も多かった頃は必然的にコミュニケーションも増えて、業務以外の会話も自然と交わされていたように思いますが、今はそうではありません。生産性やライフワークバランスが向上したことは素晴らしいものの、コミュニケーションという面からはかえって希薄になりやすいと思います。
では会社として意図的にコミュニケーション機会を作るためにはどうしたらよいかを考える中で、1on1ミーティングが有効なのではないかと、さまざまな企業に足を運びヒアリングする中で感じました。この時点でどのくらいの効果が見込めるかは分かりませんでしたが、まずはトライしようと導入が決まりました。
——すでに内田さんも研修を企画・実施する担当だったのでしょうか
内田:いえ、当時私は新任の支社長として、研修を受ける側でした。集まったのは新入社員の配属がある支社の責任者と、私のような新たに支社長に任命された者たちでした。
初年度の研修は、ミーティングを実施する前の座学の位置づけでした。したがって「これまでも部下と面談は行ってきたけれど何が違うのだろうか」と感じていたのが率直なところです。
——当時、支社長の立場で感じていた課題を教えてください
内田:コミュニケーション・ロスの不安は、私も大きかったです。私が支社長になったのが2020年春。部下の半分以上はずっとテレワークで、コミュニケーションが減っていることは気になっていました。こちらが感じていたということは、メンバーはもっと深刻に思っていたかもしれません。少なからず離職の増加等の影響にもつながっていたのではないかと思います。
——研修を受けその後1on1を行ってみての感想はいかがでしたか
内田:普段なら業務の話題しか話さないメンバーと業務外のことを雑談のように話しているときは、「こんな話でいいのかな」と思っていましたが、知らなかった一面が分かるなどの新鮮さはありました。
ただし、いきなり1on1と言っても双方とも身構えてしまうのは当然です。講師の世古先生もおっしゃっていましたが、一朝一夕で成果につなげられるものではないとも思いました。半年に一回程度の機会では定着しないので、意図的に頻度を増やして、かつ継続していくことが大切だと感じました。
継続的な実践と研修での学びが離職率低下につながった
——回数を重ねるごとに1on1のスキルは向上しましたか
内田:自分では言いづらいのですが(笑)だんだんナチュラルな会話ができるようになったと思います。世古先生の2回目の研修だったかと思いますが、会話のネタを用意する方法や「この話題も触れてよいか」と部下に同意を取って会話する手法など、かなり実践的な内容を教わったことが印象に残っています。
部下の立場を思いやるというか、話しやすい環境を整える気遣いなども多くの管理職が身についたのだと実感します。
——1on1を継続したことの成果をお聞かせいただけますか
内田:端的な成果としては、2021年度のコロナ禍の中で新入社員の1年以内離職者数が10名だったのに対し、2022年度は4名、2023年度はゼロ(1月末現在)になりました。1on1だけがすべての要因ではありませんが、コミュニケーション・ロスという課題は解消されつつあり、直属の上司部下の関係性がより良いものとして築けている手応えは感じられています。
この新入社員の定着率向上という結果を受け、新入社員だけでなく2・3年目さらに5年目まで拡大していくこととなり、対象が拡大しました。取り組みそのものを組織的に継続したことで、風通しのよい職場が実現できているのではないかと思います。
回数を重ねて観測したことで、実施後のリサーチで「新しい気づきが得られた」「心理的安全性が高まった」などとポジティブなコメントが寄せられるケースにはある傾向があることもわかりました。1on1ミーティングに30分以上の時間をかけて、しっかり話したほうが特に部下の満足度が高くなるのです。また実施回数の頻度も影響するので、上司側にも働きかけてより深く定着させていくのが今後の目標だと考えています。
スキルアップに最適な研修を提供してそれぞれのキャリア形成に寄与したい
——1on1が定着してきたうえで、次なる社内教育や人事の課題をお聞かせください
内田:キャリアを自らが考え、それに向けて行動していける環境をより整備していくことが次の課題だと感じています。今は多様性の時代の中で、会社がより成長していく為には社員一人ひとりの能力や適性をより発揮していくことが重要であると感じて言います。
多くの社員がキャリアを支社でスタートさせ、お客様への新規加入から保全サービス、お支払いに関することまで、生命保険のサービスに関する一連の業務を経験します。そして、ローテーションとして、たとえば経営企画、商品開発、人事や財務といった業務を専門とする本社部門へ配属となります。
——お客様対応をメインとする支社から専門性の高い本社部門へとジョブチェンジすると戸惑いもありそうです
内田:まさにその通りです。支社でのお客様対応のときは仕事のスピードや対人コミュニケーションを発揮してきた人材も、本社業務では論理的思考を深める必要性が求められます。
そこで新たな取り組みとして、2~5年目の社員に対し「文章力向上プログラム」を導入し、ロジカルシンキングを鍛える取り組みを始めました。ベースは、2022年にかんき出版さんと実施した「ビジネス文章研修」です。文章力に関する多数の著作がある山口先生のお話に社内でも反響が多かったため、より実践的な内容で参加する社員が書いた文章の添削を受けられるような研修も導入しています。
——1on1研修と同様にスモールスタートで、手応えがよかったから対象を広げているのですね
内田:はい。研修を受けた若手だけでなく、上層部からの評価が高かったので、継続と拡大になりました。このように研修は「入口」を与える機会として魅力的だと思います。ただ単発の研修だと「いい話を聞いた」だけで定着につながらない懸念もあるので、やはり継続性が大切ですね。
OJTももちろん重要なのですが、いきなり現場に任せてもうまくいきません。だからこそ外部の方から知見をお借りしてノウハウを注入するのは効率的であり、弊社の考え方や文化のことも理解していただいているパートナーの存在は心強く感じています。
今後は個別化、つまり社員のステータスにマッチした教育機会を提供していき、若手の社員たちがやりたいことを見つける手助けをしたいです。せっかく入社してくれた仲間が長く活躍できるような人材育成を目指していきたいと思います。
——ありがとうございました。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。