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これからの時代に求められる「スキルベース組織」とは? ~人事・育成担当者が押さえておくべきポイントを徹底解説~

これからの時代に求められる「スキルベース組織」とは?  ~人事・育成担当者が押さえておくべきポイントを徹底解説~

目次

2025年6月11日に『これからの時代に求められる「スキルベース組織」とは? ~人事・育成担当者が押さえておくべきポイントを徹底解説~』と題した人事・研修ご担当者向けのセミナーを開催しました。
経営・人事コンサルティング領域で実績を豊富に有する株式会社HRインスティテュートより、三坂健氏、江口瑛子氏をお招きし、スキルベース組織への変革におけるポイントについてお話しいただきました。
セミナーの一部を抜粋・編集してご紹介します。内容は、講師2名の許可を得て掲載しております。

なぜスキルベース組織が必要なのか? その背景と課題

株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 三坂健氏

三坂氏からは、「スキルベース組織」が注目される背景や押さえるポイントについてお話いただきました。

スキルベース組織とは? 必要とされる背景

今、「スキルベース組織」という考え方が、急速に注目されています。ここ1~2年で一気に関心が高まっていて、実際に導入を始めた企業も出てきており、これは間違いなく「これからのテーマ」です。

「ご自身のスキルを10個、すぐに挙げられますか?」
「今の仕事はそのスキルに沿ってアサインされていますか?」
「そのスキル、磨いていますか?」
この3つに「はい」と答えられる状態を目指すのが、スキルベース組織です。

従来のビジネスは、指示命令系統を重視したヒエラルキー型組織を前提に進められてきました。しかし、時代の変化に伴い、業務が複雑化かつ多様化し、管理職1人の業務範囲全部はマネジメントできなくなっています。そこで、一部をそのスキルを保有している人に補填・サポートしてもらう必要性が出てきました。部下を資源ではなく関係性で捉え、ジョブを満たしていくというありかたです。
スキルを重視し、社員同士の主体的な行動・関わりを重視したリレーション型の組織への変革が徐々に進んでいます。

「スキルベース組織」が注目される背景には、「人手不足」と「人手余り」という問題があります。特に中小企業では人材の流出が激しく、大企業でもデジタル人材などが不足しています。同時に、ホワイトカラーで従来のやり方では活躍しきれない、また生産性向上やDXによる業務削減で人材が余っている現象もあります。ここに「スキルの可視化」と「マッチング」の必要性が出てくるのです。

可視化されたスキルに沿ってアサインされる

スキルが可視化されていないと、スキルを保有していないことに気づきにくく、うまくいかない、ジョブが達成されない、ということが常態化し、とても非効率です。
そこで、スキルが可視化されることが重要です。スキルが可視化されると、ジョブに対して求められるスキルを保有する人をアサインすることができます。また、不足していれば、トレーニングの対象となり、リスキリングなど育成でスキルを満たしていけます。ジョブに対して必要なスキルが満たされると、パフォーマンスが上がり、組織全体として最適化できるのです。

タレントサイドに対してもスキル可視化が不可欠です。製造業では職能の考え方から力量管理表が作成され管理・運用されてきました。また、デジタル技術の世界でも、エンジニアのテクニカルスキルは可視化・把握されることが一般的です。
複雑化したビジネス環境においては、スキルは、カッツモデルをベースとすると「テクニカルスキル」だけでなく、リーダーシップやコミュニケーション力などの「ヒューマンスキル」や、戦略立案や意思決定を行う「コンセプチュアルスキル」も含まれます。

スキルベース組織の人材マネジメント

スキルベース組織とは、社員一人ひとりのスキルを軸に、採用・育成・配置・評価を行う新しい人材マネジメントの考え方です。本資料では、その運用プロセスが5つのステップで整理されています。


1.方針決定
まず重要なのは、「人材戦略の策定」です。ここで目指す人材像を定義し、育成・運用のロードマップを描くことが出発点となります。

2.スキル可視化
スキルアセスメント手法や評価ツール・システムを導入し、職務ごとのスキルとレベルを定義します。社員にはフィードバックを行い、可視化されたスキルデータをもとに次のアクションにつなげます。

3.スキル管理・ギャップ把握
人材データベースの設計とスキルデータの定期更新を行い、スキルギャップを分析。ギャップ情報は育成計画や配置検討の基盤として活用されます。

4.育成・開発(採用)
OJTやOff-JTによる育成支援、トレーニング提供、進捗モニタリングなどを通じてスキルギャップの解消を目指します。また、スキルに基づいた「スキルベース採用」も可能となります。

5.活用(アサイン・異動)
可視化されたスキルデータを活用し、人材異動や配置を最適化。タレントマーケットプレイスの導入や社内公募制度の設計により、社員のキャリア自律も支援できます。

スキルベース組織では「スキルの可視化・評価・マッチング」が起点となるために、プラットフォーム導入を含めたシステム的基盤の整備も必要です。

「管理」から「成長支援」へ 押さえるべきポイント

スキルベース組織に変革していくには

スキルベース組織へと変革していくためには、「ジョブサイド」「タレントサイド」そして「ミッション・ビジョン・戦略」の3つの視点を結びつけていきます。

まず「ミッション・ビジョン・戦略」を出発点として、「ジョブサイド」では、事業目標に沿って、必要なジョブを洗い出します。そのジョブをしっかり満たすことによって、このミッション・ビジョン・戦略に貢献していくことになります。そしてジョブが棚卸しされたら、そのジョブごとに求められるスキルを可視化します。
スキルが可視化されると、「タレントサイド」でも、そのスキルを社員がどれだけ保有しているかを評価・確認します。
この三角形でスキルの可視化が行われていくことがスキルベース組織への変革において重要です。ただ、いきなり全社でやろうとすると非常に大変なので、まずは一部のプロジェクトや部門から段階的な導入も実効性のあるアプローチです。

スキルの可視化・把握方法

可視化方法としては、大きく分けて、①自己申告、②アセスメント、③AI解析の3つがあります。
ジョブサイドでは、組織に求められるスキルの全体像(スキルタクソノミー)を構造的に示していきます。事業が変われば、必要なスキルも変わるため、スキルタクソノミーもアップデートさせます。
同様に、タレントサイドでは、個人のスキルの保有状況が可視化されるスキルマップができるので、こちらと照らし合わせていきます。

スキルベース組織における好スパイラル

スキルの可視化は、採用・配置・育成に活かされます。組織の向かうべき方向性に沿って、必要なスキルが洗い出されて、採用や育成につながっていくのです。
仕組みが回り始めると、社員はスキルと業務が合致したポジションに配置され、成果を出しやすくなり、評価にもつながります。これは本人のモチベーションや成長意欲にも直結し、「スキルを磨く → 成果を出す → 評価・処遇される」という好循環が生まれます。報酬の形態も変更する必要があり、すぐには難しいかもしれませんが、スキルベース組織が目指している理想の姿です。

スキルベース・ラーニングとは

スキルベース組織へ変革していくためには、社員各自が自らのスキルを把握し、主体的に学習するサイクルを作ることが求められます。今後は、このようなスキルベース・ラーニングという考え方が、主流になると見ています。

1.必要なスキルを把握する(スキル把握)
  役職に必要なスキル/求められるジョブに必要なスキル

2.自らのスキルを可視化する(スキル可視化)
  自己申告/スキル保有診断やアセスメント/スキルマッピング

3.強みを伸ばし、弱みを補強する(ラーニング)
  マイクロラーニング/個別の課題設定

4.職務でスキルを発揮し、磨きをかける(実践)
  1on1ミーティングで振り返り/スキル習熟度/他者からの評価

スキル育成を成功させる具体策と事例紹介

株式会社HRインスティテュート チーフコンサルタント 江口 瑛子氏

江口氏からは、実際に「スキルベース組織」への移行を進めた企業の事例が紹介されました。

この企業では、前述のスキルベース組織のマネジメントに沿って、職務ごとのスキルの可視化と、社員の保有スキルがデータベース化され、アサインや異動の自由度も高められました。そうして、社員自らがどうなりたいか、そのために必要なスキルは何かを考え、社員主導でキャリアを描いていく仕組みに整備されました。キャリア自律を進める抜本的な改革となっています。

論理的思考力強化のための“鍵”

とはいえ、「いきなりここまでは難しい」という声も聞かれます。そのような場合に、特定のスキルについての可視化、ギャップの把握、育成をミニマムにスタートする事例もあります。ロジカルシンキング診断を活用した、思考力強化プログラムの事例です。
「思考力」は、スキルの中でも職種問わず求められるポータブルスキルであり、底上げが必要となります。
「ロジカルシンキング診断」は、ロジカルシンキング実践度を8つの要素から診断するもので、各要素のスキルレベルを測ります。その結果から、強みと課題が可視化され、強化すべき点を研修・ワークで学び、課題の克服を目指します。そして、その後も月単位で習慣的に実践していき、定着化したところで事後アセスメントを行って、変化を明らかにしていきます。

実践テーマ例としては、テーマ、事実、解釈、結論の4要素を切り分けて記載する「ロジカル4段日記」です。実際に導入されて、プログラム前後で論理的思考力に対する意識や行動もプラスの変化が見られました。
また、1人ではなくチームで取り組む、フィードバックし合ってモチベーションを維持向上、伴走者がアドバイスする、といった伴走サポートが成功のポイントになってくると思います。

スキルベース組織への移行にあたり、スモールスタートでも、スキルの可視化→ギャップ把握→育成→実践→再可視化という流れが作れます。まずはフォーカスポイントを決めて導入されることが現実的です。

参加者の声

  • スキルベース組織の構造がよくわかりました。すでに取り入れている企業の事例にあったスキルの数の膨大さに驚きました。
  • 全社で進めるのは中々ハードルが高いのですが、プロジェクト単位など小さなところから始める点に納得でした。
  • 「成果で評価する点は変わらないが、強化すべきスキルを明確化してジョブを満たし、成果につなげやすくする」という内容が印象に残りました。

講師プロフィール

三坂 健氏
株式会社HRインスティテュート 代表取締役社長 プリンシパルコンサルタント
経営コンサルティングを中心に、事業戦略立案・実行支援、新規事業開発、人事制度設計・運用、人材育成トレーニング等を中心に活動している。また、海外進出を担いベトナム、韓国、中国の拠点設立に携わる。

江口 瑛子氏
株式会社HRインスティテュート チーフコンサルタント
IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(のち日本IBM)戦略コンサルティング部門にて業務改革のコンサルティングに従事。その後HRインスティテュートに参画し、現在はコンサルタント向けの研修(ロジカルシンキング、ドキュメンテーション等)及び新人研修の講師を担当。

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