目次
「若手社員とのコミュニケーションがうまくいかない」
「報連相はしているはずなのに、認識のズレが生じる」
このような課題を感じている企業は少なくありません。
チャットやオンライン会議、生成AIの普及によって業務効率は向上する一方で、人と人との関係づくりに悩む職場は増えています。特に若手社員の育成やマネジメントにおいては、コミュニケーション力や気配り、信頼関係構築の重要性が改めて注目されています。一方で、こうした基本行動を個人任せにせず、職場でどう定着させるかに課題を感じる企業も少なくありません。
こうした時代にこそ参考にしたいのが、後田良輔氏の著書『今こそ使える 昭和の仕事術』です。本書でいう「昭和の仕事術」とは、根性論や昔ながらの働き方を指すものではありません。デジタル化が進んだ現代だからこそ価値を増している、あいさつや気配り、信頼関係構築といった“人と人との関わり方の基本”を体系化したものです。
本書では、著者の30年以上にわたるビジネス経験をもとに、相手との信頼関係を築き、円滑なコミュニケーションを実現するための100の仕事術が紹介されています。
本コラムでは、本書で紹介されている100の仕事術の中から、コミュニケーション力向上や気配り、信頼関係構築につながる仕事術を取り上げ、人材育成や組織づくりにどのように活かせるのかを解説します。
コミュニケーション力を高める仕事術
コミュニケーション研修や若手社員研修では、「伝える力」や「聞く力」の重要性が繰り返し語られます。しかし、実際の職場では「何を話すか」ばかりに意識が向き、「どのように相手と関係を築くか」まで考えられていないケースも少なくありません。
本書では、良好な人間関係や信頼関係の土台となるコミュニケーションの基本について、多くの仕事術が紹介されています。ここでは、その中から特に人材育成の現場でも活用できる3つの仕事術を取り上げます。
あいさつは自分からする
人に好感を持たれたければ、まず自分からあいさつをすること。本書では、その重要性が繰り返し語られています。
職場では、相手からあいさつされてから返そうと考えたり、タイミングを逃してしまったりすることがあります。しかし、それでは人間関係の主導権を相手に委ねている状態ともいえます。
そこで紹介されているのが、「自分からあいさつをすることをルール化する」という考え方です。少し離れた場所にいる相手や後ろ姿しか見えていない相手にも、自分から声をかける。そうした行動を習慣にすることで、あいさつをするかどうかで迷うことがなくなります。
あいさつは単なる礼儀ではありません。「あなたと良い関係を築きたい」という意思表示でもあります。だからこそ、毎日の小さな積み重ねが職場の信頼関係につながるのです。
若手社員の育成においても、まずは自分から声をかける習慣を身につけることが重要です。コミュニケーションに苦手意識がある人でも取り組みやすく、すぐに実践できる仕事術といえるでしょう。
認識のズレを防ぐために「結論から伝える」
職場で起こる認識のズレは、知識や経験の差だけが原因ではありません。伝え方によって生まれるケースも少なくありません。その解決策として紹介されているのが、「まず結論から伝える」という仕事術です。
例えば上司から進捗を聞かれたとき、経緯から説明を始めてしまう人がいます。しかし、聞き手が知りたいのは「結局どうなったのか」です。最初に結論を伝え、その後で理由や背景を説明することで、相手は話の全体像を理解しながら聞くことができます。
会議や報告、メールなど、ビジネスのあらゆる場面においてこの考え方は有効です。結論を先に伝えるだけで、相手の理解度は大きく変わります。
報連相がうまく機能しない企業では、「伝えたつもり」と「伝わった」の間にギャップが生じていることがあります。そうした課題を解消するためにも、結論から話す習慣を身につけることは重要です。
コミュニケーション力向上というと高度なプレゼンテーションスキルを想像しがちですが、まずは相手が知りたいことに端的に答えることが基本なのです。
相手の理解を深める「要約のオウム返し」
コミュニケーションというと話す力に注目が集まりがちですが、本書では聞く力の重要性についても触れられています。
その代表的な仕事術が「要約してオウム返しする」という方法です。
相手の話を聞いたあとに、「つまり○○ということですね」と要約して返すことで、自分が正しく理解できているかを確認できます。また、話している側も「しっかり聞いてもらえている」という安心感を得られます。
もし認識にズレがあった場合でも、その場で修正できるため、大きな誤解を防ぐことにもつながります。
職場では、会議や打ち合わせ、商談など、相手の意図を正しく理解することが求められる場面が数多くあります。しかし、話を聞いたつもりでも、実際には認識にズレが生じていることは少なくありません。
そのような場面では、要約のオウム返しが有効です。相手の話を整理しながら返すことで対話が深まり、相互理解も進みます。
また、「自分の話をきちんと聞いてもらえている」という安心感を相手に与えられる点も大きなメリットです。聞く力は円滑なコミュニケーションの土台であり、信頼関係を築くうえでも欠かせません。この仕事術は、相手との認識を合わせながら良好な関係を築くための実践的な方法といえるでしょう。

気配りが伝わる人の行動習慣
職場で信頼される人には共通点があります。それは、相手への気配りが自然な行動として表れていることです。本書では、気配りは生まれ持った性格や才能ではなく、日々の習慣によって身につけられるものだと考えられています。ここでは、周囲との信頼関係を築くうえで参考になる3つの仕事術を紹介します。
相手に「しっかり聞いている」を伝えるメモ術
メモは情報を記録するためのもの。多くの人はそう考えるかもしれません。しかし、本書で語られているのは少し異なる視点です。紹介されているのは、A4サイズ以上の大きなノートを使ってメモを取るという仕事術です。その理由は、単にたくさん書けるからではありません。
大きなノートを広げて話を聞く姿勢そのものが、「あなたの話を真剣に聞いています」というメッセージになるからです。
実際、自分の話を熱心にメモしてもらえると、相手は大切に扱われていると感じます。反対に、まったくメモを取らない姿勢からは、関心の低さを受け取られることもあります。
人材育成の場面でも同様です。面談や1on1の際に丁寧にメモを取りながら話を聞くことは、部下への関心や敬意を示す行動になります。
メモは記録のためだけでなく、信頼関係を築くためのコミュニケーションツールでもあるのです。
人が嫌がることに率先して取り組む
組織には誰かがやらなければならない仕事があります。
例えば、トラブル対応や後片付け、面倒な調整業務などです。目立つ仕事ではないため、できれば避けたいと考える人もいるでしょう。
そのような場面で率先して手をあげることが、信頼を得る近道だとされています。
人が嫌がることに取り組む姿勢は、「自分のことだけを考えていない」というメッセージになります。その積み重ねが周囲からの評価や信頼につながっていくのです。
組織づくりの観点から見ても、この考え方は重要です。
成果だけでなく、組織への貢献や周囲への配慮を評価する文化があれば、協力し合う風土が育まれやすくなります。
目立つ成果ばかりではなく、見えにくい貢献にも目を向けることの大切さを教えてくれる仕事術です。
周囲にストレスを与えない所作の基本
ドアを強く閉める。椅子を乱暴に引く。資料を雑に扱う。本人に悪気はなくても、そのような行動は周囲に不快感を与えてしまうことがあります。一方で、静かで丁寧な動きを心がける人には安心感があります。
職場では、コミュニケーションは言葉だけで行われているわけではありません。日々の振る舞いや所作からも、人柄や仕事への姿勢は伝わっています。相手に余計なストレスを与えないことも、立派な気配りの一つです。
小さな行動の積み重ねが信頼関係をつくる。この仕事術は、そのことを分かりやすく教えてくれます。

信頼関係を築くビジネスマナー
ビジネスマナーというと、名刺交換や敬語、席次といった形式的なルールを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、本書で語られているのは、単なる作法ではありません。
相手に不快感を与えないこと。相手が気持ちよく仕事ができるように配慮すること。その積み重ねが信頼関係の構築につながるという考え方です。
ここでは、第一印象や言葉遣い、断り方に関する仕事術を紹介します。
第一印象を左右する「さわやかさ」
服装は自分のために選ぶものだと思われがちです。しかし本書で重視されているのは、「自分が好きか」ではなく「相手にどう見えるか」という視点です。そこで勧められているのが、「さわやかさ」を基準に服装を選ぶことです。
ビジネスにおいて服装は自己表現ではなく、相手とのコミュニケーションの一部です。どれだけ仕事の能力が高くても、だらしない印象や不潔な印象を与えてしまえば、信頼関係の構築は難しくなります。
だからこそ、自分の好みよりも、相手に安心感や清潔感を与えられるかを優先することが大切だといいます。
若手社員育成においても、ビジネスマナーをルールとして教えるのではなく、「相手への配慮」という観点で伝えることで理解が深まるでしょう。
「嬉しい」「助かる」「大感謝」を使う
感謝の気持ちを伝えることは大切だと分かっていても、実際には「ありがとうございます」の一言で終わってしまうことも少なくありません。
本書で勧められているのは、「ありがとう」だけでなく、「嬉しい」「助かる」「大感謝」といった感情が伝わる言葉を使うことです。
例えば同僚が手伝ってくれたときに、「ありがとう」だけで終わるのではなく、「本当に助かった」「それは嬉しい」「大感謝です」と伝える。すると相手は、自分の行動が相手の役に立ったことを具体的に実感できます。
職場の信頼関係は、大きな出来事によって築かれるとは限りません。こうした小さな言葉の積み重ねによって生まれることも多いのです。
コミュニケーション力を高めたいのであれば、感謝を思うだけでなく、相手に伝わる言葉として表現することが重要だといえるでしょう。
断るときこそ相手への配慮を忘れない
仕事をしていると、依頼や誘いを断らなければならない場面があります。
しかし、断り方を間違えると、相手との関係に悪影響を与えてしまうことがあります。
そこで紹介されているのが、「大義名分を添えて断る」という考え方です。
例えば、「忙しいので無理です」とだけ伝えるのではなく、「先約があるため参加できません」「現在進行中の案件を優先する必要があります」と理由を添えることで、相手も納得しやすくなります。
重要なのは、断ることそのものではなく、相手への敬意を失わないことです。
ビジネスでは、自分の都合だけでなく相手の立場にも配慮しながらコミュニケーションを取ることが求められます。断る場面にこそ、その人の人間性やコミュニケーション力が求められます。

人材育成・組織づくりに活かせるポイント
ここまで紹介してきた仕事術は、一見すると個人の振る舞いに関する内容に見えるかもしれません。しかし、その根底に流れているのは「相手を大切にする」という一貫した考え方です。
だからこそ、本書の内容は個人のスキルアップだけでなく、人材育成や組織づくりにも活かすことができます。
若手社員に教えたいコミュニケーションの基本
近年、多くの企業で若手社員のコミュニケーション力向上が課題となっています。しかし、その解決策として高度な会話術やプレゼンテーションスキルばかりに目が向いてしまうことがあります。
本書で紹介されている仕事術は、その対極にあります。
あいさつは自分からする。
聞かれたことには結論から答える。
相手の話は要約して返す。
どれも特別なスキルではありません。しかし、こうした基本行動を徹底できる人は決して多くありません。若手社員育成においても、まずは社会人としてのコミュニケーションの土台を身につけることが重要です。本書で紹介されている仕事術は、そのための具体的な行動指針となります。いずれもシンプルですが、職場で当たり前に実践される状態をつくるには、継続的に意識づける仕組みも欠かせません。
管理職にも求められる「相手を大切にする姿勢」
本書で紹介されている仕事術は、若手社員だけでなく管理職にも参考になります。
メモを取りながら話を聞くことや、要約して相手の話を確認すること、感謝の言葉を積極的に伝えることは、いずれも「相手を大切にする姿勢」の表れです。
管理職になると、つい指導することや評価することに意識が向きがちです。しかし、信頼関係は日々の小さな行動の積み重ねによって築かれます。
本書の仕事術は、部下とのコミュニケーションを見直すヒントにもなるでしょう。
組織全体で気配り文化を育てるには
気配りは個人の資質だと思われがちですが、本書では習慣として身につけられるものだと考えられています。この考え方は、組織づくりにおいても重要です。
例えば、人が嫌がる仕事に率先して取り組む人を評価する。感謝の言葉を伝える文化をつくる。相手に配慮したコミュニケーションを推奨する。
そうした行動が評価される組織では、自然と協力し合う風土が育まれていきます。
人的資本経営が重視される現在、企業に求められているのは制度や仕組みだけではありません。社員同士が信頼し合い、安心して働ける環境づくりも重要なテーマです。
本書で紹介されている仕事術は、一人ひとりの行動を変えるだけでなく、組織文化そのものを変えるヒントにもなるでしょう。
デジタル化やAI活用が進む現代においても、組織の成果を支えるのは人と人とのコミュニケーションです。
『今こそ使える 昭和の仕事術』には、あいさつや報連相、気配りといった一見当たり前に見える行動を、信頼関係構築のための具体的な仕事術として実践するヒントが数多く紹介されています。
若手社員育成や組織風土づくりに課題を感じている企業にとっても、本書の考え方は多くの示唆を与えてくれます。こうした基本行動を組織で共通化し、実践につなげる方法として、研修で体系的に学ぶことも有効です。
後田良輔氏による「気配りコミュニケーション術」研修では、本書で紹介されている考え方をもとに、職場で実践できるコミュニケーションや信頼関係構築の方法を体系的に学ぶことができます。
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