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レジリエンスとは、立ち直る力のこと。過去の成功体験が通用しないVUCA時代では、変化に合わせた柔軟な対応が求められます。さらに人材の多様化によるコミュニケーションエラーや人材不足の影響もあり、ストレスがたまりがちなビジネス環境にあります。レジリエンスを高めることで、困難な状況下に置かれても、乗り越えていくことができるようになります。
当コラムは、20年近くの心理カウンセラーとして7,000件以上のカウンセリングを実施してきた鈴木雅幸氏が企業で実施している研修プログラムからまとめました。「心の課題解決」を行う専門家しての経験を活かし、13年前から企業におけるメンタルヘルス、ストレスマネジメント、傾聴力、会話術、レジリエンスなどの研修を提供。研修導入をご検討の方もぜひお読みください。
レジリエンスとは
元々は物理学の用語で「回復力」「復元力」「弾力性」のことです。心理学の世界では「忍耐力」「立ち直る力」という意味で使われています。レジリエンスを高めることで、仕事のプレッシャーや失敗、トラブルなどがあっても、心の健康を保ちながら、慌てずに落ち着いて対処することができるようになります。
レジリエンスは、次の6つの要素により構成されています。
(1)自己認識
自分が大切にしている価値観や目標、信念を正しく認識すること。困難な状況下に置かれたときに自分自身を客観的に見て、対処していくことができます。
(2)自制心
その時々の自分の感情・感覚を正しく理解し、適切に制御できる力のこと。感情に振り回されない行動を行うことができます。
(3)精神的敏捷性
物事を多角的に捉え、全体像を把握し、迅速に対処すること。様々な角度から客観視し、本質を見極めるので、感情的にならず冷静に判断をすることができます。
(4)楽観性
物事を前向きな感情やプラス思考で捉えること。困難な状況でも、未来志向で物事を考え、希望を抱くことができます。
(5)自己効力感
自分ならできるという自信を持つこと。トラブル、ミスなどの逆境に対して、乗り越えていくことができます。
(6)つながり
家族や友人、同僚・上司・先輩など「他者とのつながり」のこと。逆境に立たされたときに、支えてくれる存在があると、乗り越えていくことができます。
レジリエンスがビジネスで求められる理由
(1)予測困難な時代の変化への対応
近年はVUCA時代と呼ばれ、自然環境の変化やテクノロジーの進化によって、未来が予測することが難しい時代となりました。過去の成功体験が通用しないので、変化に柔軟に対応し、困難や逆境を乗り越える力が求められています。
(2)ストレス社会の対応
企業の労働者のメンタルヘルス問題が表面化し、問題になっています。令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス不調により1か月以上休業または、退職した労働者がいた事業所の割合は10.1%で、前年の9.2%よりも増加しています。職場で強い不安やストレスを感じている労働者は53.3%。仕事の量や質、仕事の失敗、対人関係がストレスの主な要因です。
困難な状況であっても、それを乗り越え、自身の成長につなげられるようになるために、レジリエンス向上が必要です。
(3)ダイバーシティ・マネジメントへの対応
これまでの日本の企業は、終身雇用制で、帰属意識の高い同じような価値観を持つ従業員が所属していましたが、いまは年齢、国籍、宗教、性別などが異なる従業員で構成されています。価値観の異なる従業員一人ひとりの多様性を受け入れ、認め、活かし続けるダイバーシティ&インクルージョンの推進が重要視されています。
価値観が異なると意見が衝突し、ストレスを感じることもあります。お互いに尊重し合う組織を目指すために従業員のレジリエンスを高めましょう。
(4)人材不足の影響
少子高齢化が進み、人材不足が深刻な課題となっています。従業員は高い生産性・効率性で働くことが求められます。また、就職活動の売り手市場が進み、転職しやすい環境です。些細なことがきっかけで離職につながらないようにしましょう。
このような企業にレジリエンス研修が必要です
・強く言われることに慣れていない若手社員が増えたと感じる
・自ら行動することがなく、指示を待っている若手社員が多い
・リモートワークでOJTによる指導が難しくなり、若手社員が成長しづらい環境になっている
・若手社員がちょっとしたことで離職しがちの傾向がある
レジリエンス研修の効果
・難局に際して冷静に粘り強く対応できるようになる
・困難を克服し精神的に早期に立ち直ることができるようになる
・目標を達成するためのやり抜く力が身につく
レジリエンス(立ち直る力)を高める5つの生き方
鈴木雅幸氏が提供する研修「レジリエンス&やり抜く力をつける心理学」から、レジリエンスを高めるための具体的な方法についてお伝えします。
(1)楽観主義でいる
不安になりやすい時こそ、落ち着いて自分で考えることが大切です。感情的になって、冷静さを失い、「どうせ上手くいかない」「自分なんてダメな人間だ」「もうおしまいだ」と思ってしまうのは、考えることを「放棄」していることが理由です。
落ち着くためには、楽観主義でいること。無理矢理に前向きになったり、何も考えないで楽観的になったりするということではありません。落ち着いて物事一つ一つを観察し、分析&判断していく。
不安な感情になる背景として、情報不足が挙げられます。「分からない」ことが理由で不安になったり、焦ったりするのです。「自分が何か分かっていないか整理する」「焦って情報不足のまま何とかしようとせずに、わからないことを“わからないまま”にする」「仮説を立てて、必要な情報を収集し、検証する」の3ステップで不安をなくすることができます。
(2)捉え方の引き出しを増やす
ポジティブな人は、物事の捉え方が幅広く、行動や決断の選択肢が豊富です。難局の場でも思考が柔軟で臨機応変に対処できます。一方で、ネガティブな人は、物事の捉え方が否定的な考えに偏り、視野が狭く、選択肢も少ない。また、思考が硬直化し、価値観も狭く、その価値観に固執してしまう傾向があります。
例えば、「人の期待に応えなければ自分には価値がない」「人に認めてもらえなければ、自分には価値がない」と思う人がいますが、そもそも「価値ある人間」とは何でしょう。仕事上の責任や成果を自分の人間としての価値と混同してしまう人は少なくありません。自分が当たり前だと思い込んできたこうした捉え方を疑ってみることも必要です。
(3)理性的になる
レジリエンスの重要なカギとして「感情的にならない」ということがあげられます。失敗して落ち込んだり、思い通りにいかずに怒ったり、挫折して立ち直れないというのは、まさに感情的な状態であることを指します。悩んでいる時も感情的な状態にあるといえます。そんな状態では視野も狭く、周りの声も届かず、自責の念に駆られるばかりで冷静な判断や対処、あるいは改善策を考えて実行することなどができません。
気持ちを立て直し、前向きに取り組むためには、視野の広さ、物事を合理的に分析し、考え、解決手段を実行できる冷静さが必要です。それこそがまさに「理性的になる」ことなのです。レジリエンスを高める生き方として、理性的になるということも重要になります。
(4)結果より目の前のプロセスに集中する
ビジネスでは、業績・評価・収入、仕事上の人間関係が良好になったなど「結果」が重視されます。しかし、思うようにいかないことは多く、結果を出すということは大変なプレッシャーになります。もちろん結果を出すことは重要なことです。しかし、「仕事で目標を達成できなかった」「満足のいく評価が得られなかった」「人間関係で誤解をされた」など、結果が出なかったときに結果だけに囚われてしまうと悲観的な感情に飲み込まれてしまいます。「目標には届かなくて悔しかったけど、今の自分の力は出し切ったか」「評価は得られなかったけど、自分に誇れる仕事はできたか」「多くの人から評価されなかったけど、目の前の人からは信頼は得られる接し方をしたか」などプロセスに注目し、「より良い仕事(の仕方・捉え方)をいかにするか?」「どうしたらより良いコミュニケーションがとれるようになるか」と建設的な考え方をするようにしましょう。
(5)ロールモデルを見つけ、模範とする
困難な状況から立ち直った人に共通する要素の一つが「モデルに出来るような人間の存在が励みとなった」ことです。キーパーソン、メンター、先生、師匠、先輩や、親・兄弟など「尊敬できる人」「いざという時信頼できる人」であり、「この人の態度・生き方を参考にしたい、真似したい」と思える人のことです。
「人として尊敬できる、敬愛できる人」「態度・仕事ぶり、生き方を学びたいと思える人」の存在があると、「あの人だったら、こんな時、どうするだろう」とモデルとなり、自分の支えになってくれます。モデリングすることでレジリエンスがつきます。
GRIT(やり抜く力)を発揮する5つのカギ
GRIT(グリット)とは、
・Guts(ガッツ):困難なことにも立ち向かう
・Resilience(レジリエンス):失敗しても諦めない
・Initiative(イニシアチブ):目標を見つけて取り組む
・Tenacity(テナシティ) :最後までやり遂げる
の頭文字を取った言葉で、「物事をやり抜く力」を意味します。
GRITの要素の一つにレジリエンスが含まれていることもあり、レジリエンスと合わせて最近ビジネスで注目されています。成功するかどうかの決め手は、生まれ持っての才能や、その人が置かれた環境ではありません。後天的な伸ばすことのできる「やり抜く力」が成功のポイントです。
GRITを発揮する5つのカギは以下のとおりです。
(1)結果ではなく経験そのものを財産とする
(2)楽しいことをするor楽しみを見出す
(3)マイナス感情をプラスに変える
(4)反復、反復、反復
(5)お代を先に払う
レジリエンスとは何か、企業でレジリエンスが求められる理由、レジリエンスを高める具体的な方法などをお伝えしました。企業で従業員に対するレジリエンス強化を行うことにより、困難を克服し精神的に早期に立ち直り、前向きに業務を遂行する人材が育成できます。研修導入をご検討の方はお問い合わせください。