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「部下がなかなか育たない」「優秀な部下が辞めてしまう」「ちょっと厳しく注意するとメンタルに支障がでる部下がいる」「チーム全体に活気がない」など上司の悩みは尽きません。上司はチームや部下に対して何も行っていないのではなく、社会的背景が急激に変化しているのに、上司と部下のコミュニケーションの取り方を変えていないことが原因です。勤務時間抑制、リモートワーク、世代間ギャップなど、個人に焦点を当てた対話が必要な社会的背景の影響で、1on1を制度として導入する企業が増えています。
本コラムでは、拙著『シリコンバレー式最強の育て方-人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング』から、1on1が求められる背景・効果や、実際に1on1で何を話せばいいのかを紹介。これらの内容を1on1研修で学ぶことができます。研修導入をご検討の方も参考にしてください。
1on1ミーティングとは
1on1ミーティング(以下1on1)とは、上司と部下による1対1の定期的な対話の時間です。一般的な面談との大きな違いは「部下のための時間」であるという点。上司は、部下の話を聞き、部下の状況や問題、関心事を把握し、アドバイスをして解決を行う場です。部下の気持ちがすっきりしたり、納得感を持ったり、チャレンジしていこうと行動したりすることが重要です。
組織で行われているコミュニケーションの課題
企業の課題は、事業面と組織面の2つに大きく分類されます。組織面での課題は、人が育たない、優秀な人がやめてしまう、チームに活気がないなど「人」に関すること。これらの問題を突き詰めていくと、根本的な原因は「個人に焦点をあてた対話の不足」です。業務に焦点をあてた「仕事の話」は、コミュニケーションをしているというより、「結果を出すための情報交換」をしているに過ぎないのです。
個人に焦点をあてた対話の目的は、「部下との信頼関係づくり」「部下の不安解消」「部下の心身状態の確認」など、部下自身に関することです。「今、どんな思いで仕事をしているのか?」「体調はどうか?」「今後はどのような業務をしていきたいか?」「業務でどんな成長ができたか?」などを共感的な姿勢で聞き、部下が業務、キャリア、プライベートについて考えていること、感じていることを話してもらいます。
なぜ、今1on1が求められるのか-1on1導入の目的
昨今、1on1が必要になっているのかは、社会的背景からも見えてきます。個人の生き方や個人を取り巻く環境が多様化・複雑化しており、仕事に影響を与える事情が増えているのです。
・会社以外での個人事情の複雑化(親の介護、男性の育児、女性の働き方、保育園事情等)
・心の病を抱える人の増加
・残業規制や働き方の社会問題化
・転職市場の広がりにより、退職しやすい環境になっている
・キャリアが見えない時代で将来に不安を抱える若手社員の増加
・職場の人と飲みに行く機会の減少 等々
これからの時代に選ばれる会社とは、多様化・複雑化する個人事情をしっかりと聞いてくれる会社です。昭和な時代は、安定的な給与の上昇と終身雇用という恩恵に対して、社員が残業をいとわず奉公しました。しかし現在は企業が真に個人と対話し、共生していく時代に変わりました。それを体現するのが1on1です。
1on1を阻害する6つの理由
【理由①】忙しい
中間管理職はいわゆるプレイングマネジャーであり、担当業務と管理職業務を掛け持ちし、多忙な毎日を過ごしているため、面談の時間を取れない。
【理由②】面倒くさい
現状の業務に余裕があるかないかに関わらず、新たな仕事が増えることを嫌がる。1on1の効果や意義が実感できていないことが原因。
【理由③】過去の面談で嫌な思いをした
自分が部下のころに上司と二人で話したことがトラウマになっている。面談が上司都合の場になってしまっている可能性がある。
【理由④】苦手意識
1on1を部下から不満を言われて責められる場と捉え、その不満を解消できるスキルが自分にはない。
【理由⑤】必要ないと思っている
現状、部下から不満もないので自分はマネジメントができている、あるいは部下が優秀で自立して動いているので、わざわざ無駄な時間を割きたくない。
【理由⑥】自分は上司に1on1をされなかった
自分のマネジメントスタイルに影響を与えているのは、かつての自分の上司。マネジメントをする上で何が効果的なのかを見定めて、意識的に自分からやり方を変えていかないとマネジメントスタイルは変わりません。
1on1で実現できる8つの効果
他の業務より優先順位を高くして1on1を実施しようと思うためには、1on1のメリットを理解する必要があります。1on1の効果は次の8つです。
①部下と上司の間に揺るぎない信頼関係が生まれる
②心身の不調を抱えていた部下が、早期対策でイキイキ働けるようになる
③やる気のなかった部下が自発的に働くようになる
④評価査定の後に不機嫌になる部下がいなくなる
⑤仕事に飽きてきた優秀な上位2割の部下が、再び情熱をもって業務に取り組むようになる
⑥「後手の対応」から「先手の対応」へと人材マネジメントが変わる
⑦部下からの「ちょっといいですか」のミーティング時間が本当に「ちょっと」になる
⑧「ビックリ退職」がなくなる
1on1で何を話すのか
1on1を実践しようとすると、「いったい何を話せばいいのか」と戸惑う上司が多くいます。1回ならまだしも、継続するとなると毎回話すようなネタはないと不安を抱えています。注意点は以下のとおり。
・雑談でもよいが、雑談ばかりではダメ。
・業務の細かな進捗の話はしない。
・話すテーマのゴールを決める必要はない。客観的視点でいま全体のどこで何の話をしているのかという意識は必要。
普段あまり話さない抽象度の高い話を中心に、中長期視点の話をしましょう。その場の雰囲気や部下の状態に共感しながら部下の立場に寄り添いましょう。実際の1on1のシーンで話す内容は、「1on1実践マップ」(左図)のようにテーマは7つに分類できます。
上司と部下との関係においても人間関係は必要です。信頼関係を築いた上で、部下の成長を支援することで、部下の成長が組織に高いパフォーマンスをもたらし、チームの結果を最大化させます。
①プライベート相互理解
部下の仕事以外の顏をどれくらい知っていますか?話してもらえていますか?部下のプライベートを把握していることで、マネジメントもしやすくなります。ハラスメントにならないよう注意しながら、部下から「聞き出す」というスタンスではなく、「結果として話してもらえる」関係をコツコツと築いていきましょう。部下に本音を話してもらうためには、上司自身がまず自己開示をするとよいでしょう。
②心身の健康チェック
管理者という立場上、部下がどのような状態で業務に取り組んでいるのか把握する必要があります。心身の状態、業務量、業務時間は毎回確認しましょう。
③モチベーションアップ
1on1のねらいは、部下のモチベーションアップを図ること。モチベーションアップには、モチベーションを下げる要因を取り除くことと、モチベーションを上げる要因を高めることの2種類があります。上司は、部下の話を共感しながら聴き、部下のモヤモヤを取り除きましょう。そして、部下に変化のあった言動を承認することを心掛けましょう。
④業務・組織課題の改善
1on1では数字や具体的案件の進捗確認などの目先の成果に関わることは扱いませんが、緊急度は低く、かつ重要度が高い仕事については確認します。将来起こりうるリスクを先回りして考えたり、業務をもっと効率化したり、部下の視野を広げたりすることで、中長期的な視点で結果を出すことに繋がります。
⑤目標設定/評価
評価で最も大切なことは「正しい評価」ではなく、「評価される側の納得感」です。日頃から1on1を実施し、物理的な接触頻度を増やして、目標へのフィードバックや承認を行い、部下の納得感を高めます。
⑥能力開発/キャリア支援
業務を通して、部下の気づきを促して、部下の能力とキャリア開発のサポートを行います。能力開発とは、すでにある能力を自覚させることです。自覚させることで、自分の能力を扱えるようになります。また、部下が社内で評価されるためのノウハウを伝えたり、ロールモデルとなる人を探したりし、部下のキャリアを支援しましょう。
⑦戦略・方針の伝達
会社の戦略や方針を部下に伝えて理解浸透を図っていくことは、上司の業務の一つです。「逆ホウレンソウ」をすることで、部下の視野が広がり、自ら動き出す部下が増えていきます。
1on1コミュニケーション研修では、1on1の必要性・重要性を理解した上で、部下との関係構築と内発的動機づけを引き出すために必要なスキル、部下の成長を支援するために必要な質問スキルなどを演習を通じて習得します。また、上司(管理職)向けだけではなく、部下向けの1on1研修もありますので、お問い合わせください。