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私たちをとりまく「常識」は常に変化しています。
例えばAIを見ても、その進化のスピードはめざましいものがあります。
社会の変化に取り残されてしまわないよう、これからは自分で考え、行動する姿勢が今まで以上に必要になってきます。そのために必要なのが「疑う思考」です。
本コラムでは、岡佐紀子氏の著書『正しい答えを導くための疑う思考』から、基本となる思考法、正しい判断を鈍らせる「認知の偏り」や「バイアス」、情報をうまく取り扱うコツ、客観的な判断力の身につけ方などを抜粋して解説します。「疑う思考」のエッセンスを取り入れた研修プログラムもご提供しておりますので、研修導入をご検討されている方は、ぜひお読みください。
「疑う思考」は今の社会に必須のスキル
「疑う思考」とは?
「疑う思考」とは、「それって本当?」と問い続けることです。今まで当たり前にしていたことや、信じ込んでいたことに「それって本当?」と光を当てることによって、視点が広がり別の可能性が見えてきます。
「考える」機会が減っている
インターネットが身近なものになり、得られる情報量は膨大になりました。その弊害として、思考力が低下するという現象が見られます。わからないことにぶつかっても、考えるよりも先に「調べよう」と思ってしまう。こうして考える機会が失われ、「考える力」が弱まっているのです。
VUCA時代の常識は今までの非常識
VUCAとは変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、あいまい性(Ambiguity)の頭文字を取ったものであり、先行きが不透明で将来の予測が困難な状態のことをいいます。変化が激しいVUCA時代ではかつて成功したことと同じやり方が通用するとは限りません。今までのように「正解を探す」というアプローチももう通用しないのです。
だからこそ、自分で考え、行動する姿勢が必要になるのです。
疑う思考に必要な批判力
必要なことは、何でも疑うことではなく、多角的な視点で物事を疑うことです。
疑う思考を活用する際に知っておくことは、「非難」と「否定」そして「批判」を区別すること。
非難には、人を傷つけようという意思があります。否定は、相手のことを見極めることなく自分本位に決めつけてしまっている状態です。
それに対して、批判力とは、物事を立体的に見る力です。
批判には、生産性があります。また、当事者が気づいていないことを指摘するような意味合いもあります。自分1人で何かを考えるときにも、それぞれを分けておくと、思考力が高まります。
批判が活発に行われるほど、違う角度から物事を見るチャンスが増えることにつながります。
「疑う思考」の基本となる3つの思考法
疑う思考は、3つの思考法をもとに構成されている
ロジカルシンキング:情報の整理と構造化
ロジカルシンキングとは、情報を整理し、それを論理的な構造に落とし込む技術です。この思考法は、複雑な問題を小さな部分に分解し、それぞれの要素がどのように関連しているかを明確にします。「MECE(ミーシー)…もれがない・重複していない・ずれていない」の考え方や「ロジックツリー」と呼ばれるフレームワークがよく用いられます。
ラテラルシンキング:創造的な問題解決
ラテラルシンキングとは、それまでの自分の考え方や見方、常識などに囚われず、自由に発想を広げていく思考法です。
多面的に観察し、何があるかを発想し、どんどん思考を横に広げていくイメージです。
「ひらめき力」と呼ばれることもあります。
クリティカルシンキング:情報の評価と判断
ロジカルシンキングが、「縦に深く掘り下げる思考法」、ラテラルシンキングが「水平に広げていく思考法」だとすると、クリティカルシンキングは「疑うことによって、斜めに立体的に発想を広げていく思考法」と言えます。前提も含めて「それって本当?」と疑いながら多角的に見ていきます。疑う思考に最も近しい思考法です。
身につけることで、突破力、情報分析力、構造力、俯瞰力、対人適応力などの力が手に入ります。
3つの思考法があることで、全体像が見えるため、3つの思考法をうまく活用していくと、問題が解決しやすくなり、大きな成果をあげることができます。3つの思考法の関係
「認知の偏り」と「バイアス」が正しい判断を鈍らせる
認知の偏りを修正していくためには
認知の偏り(認知の歪み)とは、物事を認識する際、客観的に現実を捉えることができず、主観的な思考のクセに囚われてしまうことです。環境、価値観、経験などさまざまなことに影響されて生じます。
企業で、部下や若手社員が上司や先輩社員のメンターとなり上司や先輩社員を育成する「リバースメンタリング」は認知の偏りを正す良い方法といえます。
無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)
私たちは、自分の認知の偏りに気づくことができません。無意識のうちに部分的に焦点を当ててしまうことを無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)といいます。
アンコンシャスバイアスの代表的な例
・同調圧力 周りがしているから自分も同じ行動をしなければならない、と感じる
・権威バイアス 専門家や権力者など、権威のある人の言動を鵜呑みにしてしまう
・正常性バイアス 予期せぬ事態に遭遇した時、自分にとって都合が悪い情報を過小評価する
・確証バイアス 自分の主張や信念を支持する情報や証拠ばかりを集める
・ハロー効果 ある対象について、その一部の特徴に影響されて判断が歪められる
日々無数のバイアスに影響されていますが、大切なことは、こだわり、偏りを持っていることを自覚することです。
私たちの思考は、大きく分けると「知識」と「経験」から構成され、多くの方が経験を重視してしまいます。ネガティブな経験もポジティブな成功体験もその人を縛りつけてしまうこともあります。今までのやり方に囚われるのではなく、時代の流れを考え、昔の成功体験を手放すことが必要です。
情報をうまく取り扱うコツ
情報を確認する際、「そのエビデンスは本当に正しいのか?」という視点が重要です。
間に人が介在すると全く違う情報として伝わることがあるため、データやエビデンスを利用するときには一次情報に当たることが極めて重要です。
信憑性の高い情報と言えるためには、さまざまな角度から見た「そのときの最適解」を見つけるしかありません。
誤った論理(誤謬)を見抜く方法
誤謬とは気づかないうちにこれは正しいと思ってしまい、間違った考え方をしてしまうことです。詭弁は相手を説得するための話法で、自分の主張を通そうとしたり、相手を言いくるめようとしたりするときに使います。詭弁は、本人が自覚していますが、誤謬は本人が誤りに気づいていないため、見抜くことが難しいという難点があります。
詭弁術の代表的な例
・早まった一般化(チェリーピッキング)…自分が主張したいことを立証するために、多くの事例の中からあえて自説に有利な事例を取り上げて説明するテクニック
・論点のすり替え(「おまえだって」論法)…頻繁に見かける詭弁のテクニック
・ストローマン(藁人形)論法…感情を必要以上に捻じ曲げ、相手が主張していないことを相手が言っているように見せかけるテクニック
頭の中や紙に書き出していくと、情報を俯瞰して眺めることができるようになり、「論理が破綻しているかも?」と見抜けるようになります。
思考のクセを知り、客観的に判断する力を身につける
人それぞれが無意識に持っている「7つの思考パターン」
私たちが無意識に持っている思考パターンは、ざっくりと7つに分けることができます。本書では7つの犬にたとえています。
「すべての事象には問題がある」:批判犬
「私が常に正しい」:正義犬
「私なんか全然ダメです」:負け犬
「太陽が東から昇るのも私のせいです」:謝り犬
「明日急に嵐が来て、電車が全部止まるかもしれない」:心配犬
「絶対にうまくいかない」:諦め犬
「私には関係ないのでわかりません」:無関心犬人が心の中に飼っている7匹の犬
自分も含め、人は心の中に色々な犬を飼っています。他人を観察することで、その人が何犬を飼っているかを知ることができます。
自分と相手の飼っている犬の傾向を把握することは、疑う思考を高めることにもつながります。
さらにクリティカルシンキングを身につけると、一つの視点しかなかったところに、「それって本当?」という視点が加わったことによって、「私が間違ってることもあるんだ」と、違う視点で物事が見えるようになっていくのです。
できるだけ視点を増やし、視野を広げることによって、客観視することができるようになります。
「疑う思考」をもっと仕事で活用する
「疑う思考」はどのように仕事で活用すればよいでしょうか。
複雑な問題に直面したとき、多くの人が思考停止に陥ってしまいます。
しかし、本当に解決できない問題なのかを疑うことで、問題に対処することができるようになります。
得た情報や自分の中で生じる判断に対して、疑うことを重ねていき、さまざまな角度から光を当てて、物事について判断をしていくのです。
疑う思考を最も生かせる場面が、質問する場面です。
質問する力を養うための3つのステップ
ステップ1 感想を伝える
感想を伝えられるようになりましょう。語彙力を高めて感想を伝えられるようになるためには、ロジカルシンキングがとても役に立ちます。
ステップ2 確認する
「それってこういうことですか?」など相手に尋ね、得た情報を補強していきます。確認作業は後回しにしがちです。しかし、軌道修正ができないまま会話が終わると、仕事効率やモチベーションの低下につながります。
ステップ3 質問する
知りたいことに合わせて、抽象と具体を使い分けること。抽象度を下げて具体的にすると、知りたいことに対して回答が返ってきやすくなります。
3つのステップを踏むことによって、実は敵対していると思い込んでいた相手とも共通目的を持っていたことがわかったり、相手の本心や問題の本質が見えてきたりします。
疑う思考を身につけることで、今まで気づかなかったことに気づけるようになります。そうすれば、新しいものを生み出したり、課題解決するヒントが見つけられたりします。毎日の暮らしの中に、「それって本当?」と考える機会を増やしてみてください。
著書『正しい答えを導くための疑う思考』から抜粋してご紹介しました。
「疑う思考」を元にした研修プログラムもご提供しております。VUCA時代を生き抜くための必須スキルとして研修導入をご検討されている企業様は、ぜひお問い合わせフォームからご連絡ください。
