目次
管理職には、チームの目標達成だけでなく、部下を育成し、継続的に成果を出せる組織をつくる役割が求められます。
しかし実際には、
- 「部下への指導方法が管理職によって異なる」
- 「OJTが現場任せになっている」
- 「若手や中途社員の立ち上がりに差がある」
といった課題を抱える企業も少なくありません。
こうしたばらつきが生まれる背景には、部下指導が管理職個人の経験や勘に依存しやすいことがあります。
- 「もっと主体的に動いてほしい」
- 「営業力を高めてほしい」
- 「考えてから相談してほしい」
といった期待はあっても、それを具体的な行動として伝えられなければ、部下は何を変えればよいのかがわかりません。
近年は、1on1やコーチングを導入する企業も増えています。ただし、部下の話を引き出すだけでは、必要な知識や行動が身につかない場面もあります。
特に経験の浅い若手や中途社員、新しい業務に取り組むメンバーに対しては、管理職が期待する行動を具体的に示し、実践できるように支援するティーチングの力も欠かせません。
そこで有効なのが、行動科学にもとづく指導方法です。
行動科学では、人の能力や性格を抽象的に捉えるのではなく、観察できる「行動」に着目します。成果につながる行動を明確にし、それを実践しやすい形で伝えることで、指導を精神論や属人的な経験則に頼らないものにできます。
本記事では、管理職の指導力を高めるために、行動科学の考え方をもとにした部下指導のポイントを解説します。
1.管理職の指導力がばらつくのは「教えるセンス」の問題ではない
部下育成がうまい管理職とそうでない管理職がいると、指導力やコミュニケーション力に差があると捉えられがちです。
もちろん、管理職本人の経験や関わり方も影響しますが、それだけが原因とは限りません。
むしろ大きな要因は、部下への教え方が体系化されていないことにあります。
たとえば、ある管理職は自分の経験をもとに丁寧に教えている一方で、別の管理職は「まずはやってみて」「自分で考えて」と部下に任せる。
どちらも悪意があるわけではありませんが、指導の基準が人によって異なるため、部下が受ける育成の質にも差が出てしまいます。
特にOJTや現場指導では、管理職や指導担当者の経験・勘・成功体験に頼りやすくなります。
その結果、人材が「育つ部署」と「育ちにくい部署」が生まれ、若手や中途社員の立ち上がりにもばらつきが出やすくなります。
管理職の指導力を高めるには、個人のセンスに頼るのではなく、誰でも実践しやすい「教え方」として整理することが重要です。
2.行動科学とは?部下育成を「性格」ではなく「行動」で捉える考え方
行動科学は、人の性格や意欲ではなく、観察できる行動に着目する考え方です。
部下指導にこの考え方を取り入れると、評価や印象ではなく、実際の行動をもとに課題を整理しやすくなります。
たとえば、「やる気がない」「主体性が足りない」といった評価で終わらせるのではなく、実際にどのような行動が起きているのか、あるいは起きていないのかを見ることが重要です。
「主体性がない」と感じる部下がいたとしても、その背景には「自分から相談・報告していない」「改善案を出していない」など、具体的な行動上の状態があります。
重要なのは、抽象的な印象のままで捉えるのではなく、実際にどのような行動が起きているのかを具体的に見ることです。
| 抽象的な評価 | 行動レベルで見ると |
|---|---|
| 主体性がない | 自分から相談・報告していない |
| 考えが浅い | 選択肢や根拠を整理せずに相談している |
| 報告が遅い | トラブル発生後すぐに一次報告していない |
| 営業力が弱い | 訪問前に顧客課題を仮説化していない |
このように、抽象的な評価を具体的な行動に置き換えることで、管理職は何を教えればよいのかを明確にできます。部下にとっても、何を変えればよいのかがわかりやすくなります。
行動科学にもとづく指導では、部下の性格や意欲を一方的に問題視するのではなく、「どの行動が不足しているのか」「どの行動を増やせば成果につながるのか」を考えます。
これにより、指導の内容が具体化され、管理職と部下の認識のずれも減らしやすくなります。
行動科学にもとづく指導方法について、より詳しく知りたい方は、書籍『【新版】教える技術』の要約記事もあわせてご覧ください。

3.部下が成果を出せない原因は「能力不足」とは限らない
部下が期待通りの成果を出せないとき、管理職はつい
- 「まだ力が足りない」
- 「意識が低い」
- 「経験不足だ」
と考えてしまうことがあります。
しかし、成果が出ない原因は、本人の能力不足だけとは限りません。そもそも、何をすればよいかが明確に伝わっていないケースもあります。
たとえば、「もっと早く報告してほしい」と伝えても、部下によって「早く」の基準は異なります。トラブルが起きた直後なのか、原因を整理してからなのか、対応案を考えてからなのか。
管理職が期待するタイミングと、部下が考えるタイミングがずれていれば、同じ指示でも行動は変わりません。
また、「もっと考えてから相談してほしい」という指導も同様です。どの程度考え、何を準備すればよいのかが伝わらなければ、次の行動にはつながりません。
この場合に必要なのは、抽象的な注意ではなく、行動レベルでの指導です。
たとえば、「相談するときは、現状・困っている点・自分なりの選択肢を整理して持ってきてほしい」と伝えれば、部下は次に何をすればよいかを理解しやすくなります。
管理職の指導では、結果だけを見るのではなく、成果につながる行動が実行されているかを見ることが重要です。
行動に着目することで、部下に対するフィードバックも具体的になり、「何を改善すればよいのか」が伝わりやすくなります。
4.「できる社員」の行動を分解すれば、指導は再現しやすくなる
職場には、成果を出している社員や、立ち上がりが早い社員がいます。
こうした「できる社員」は、特別な才能だけで成果を出しているわけではありません。多くの場合、成果につながる行動を日常的に積み重ねています。
しかし、その行動は本人にとって当たり前になっているため、言語化されていないことも少なくありません。
周囲から見ると「営業力がある」「段取りがよい」「気配りができる」といった印象で語られますが、そのままでは他の社員に教えることができません。
特に、自身が上司や先輩の背中を見て仕事を覚えてきた管理職ほど、部下にも「まずはやってみて」「見て覚えて」といった指導をしやすい傾向があります。
経験を通じて学ぶこと自体は重要ですが、業務の前提知識や育ってきた環境が異なる部下に対しては、暗黙知のままではうまく伝わらない場合があります。
たとえば、「営業力が高い」という表現だけでは、他の社員に何を教えればよいのかがわかりません。
これを行動に分解すると、
- 「顧客課題を仮説化する」
- 「次回確認事項を整理する」
- 「意思決定者を把握する」
- 「失注理由を振り返る」
といった、具体的に教えられる行動になります。

このように、成果を出している人の行動を分解すれば、他の社員にも共有しやすくなります。
これは営業に限らず、若手育成、OJT、マネジメント、技能伝承などにも共通します。
部下育成においては、「自分はできる」だけでなく、「できるようになるまでの行動を説明できる」ことが重要です。
5.管理職が押さえたい、行動科学にもとづく指導のポイント
ここでは、管理職が日常の部下指導で押さえたいポイントを紹介します。
期待する行動を具体的に伝える
部下指導では、「しっかりやって」「もっと考えて」「主体的に動いて」といった抽象的な言葉が使われがちです。
しかし、こうした言葉だけでは、部下が具体的に何をすればよいのかが伝わりません。
たとえば、「もっと考えてから相談して」ではなく、「相談前に、選択肢を2つ用意して、それぞれのメリット・デメリットを整理してほしい」と伝える。
「報告を早くして」ではなく、「トラブルが起きたら、原因がわかっていなくてもまず15分以内に一次報告してほしい」と伝える。
このように、期待する行動を具体的にすることで、部下は実践しやすくなります。
管理職に求められるティーチングとは、単に手順を一方的に説明することではありません。
部下が次に取るべき行動を理解し、実際に動ける状態にすることです。
できている行動を見つけて承認する
部下指導というと、できていない点を指摘する場面をイメージしがちです。しかし、望ましい行動を増やすには、できている行動を見つけて承認することも重要です。
たとえば、部下が事前に資料を整理して相談に来たのであれば、「今回のように論点を整理してから相談してくれると、次の判断がしやすい」と伝える。
これにより、部下はどの行動がよかったのかを理解し、次回も同じ行動を取りやすくなります。
単に「よかったよ」と褒めるだけでなく、どの行動がよかったのかを具体的に伝えることがポイントです。
結果だけでなく、成果につながる行動を見つけて認めることで、部下は再現すべき行動を理解しやすくなります。
行動を確認し、次の改善につなげる
指導は、一度伝えて終わりではありません。部下が実際に行動できているかを確認し、必要に応じてフィードバックすることで、行動は定着しやすくなります。
たとえば、「次回の商談前に、顧客課題の仮説を3つ出してみよう」と伝えた場合、その後に実際の準備内容を確認します。できていれば承認し、不足があればどこを改善すればよいかを具体的に伝えます。
このように、期待する行動を伝え、実践を確認し、フィードバックする流れをつくることで、部下は成果につながる行動を身につけやすくなります。
日常の1on1や面談も、単なる対話の場にとどめず、行動を確認し次の実践につなげる場として活用することが大切です。
6.行動科学にもとづく指導が、OJTのばらつき解消にもつながる理由
OJTや現場指導では、指導担当者によって教え方に差が出やすいものです。
ある担当者は細かく手順を教え、別の担当者は「見て覚えて」と伝える。こうした状態では、同じ会社の中でも育成品質が安定しません。
たとえば、新人に対して「顧客対応を覚える」と伝えるだけでは、指導内容が曖昧です。
- 「来客時には最初に要件を確認する」
- 「確認した内容を復唱する」
- 「判断に迷ったら上司に相談する」
といった行動に分解すれば、指導する側も教えやすく、教わる側も実践しやすくなります。
つまり、行動科学にもとづく指導は、管理職個人の経験や勘に頼らない育成につながります。
新任管理職やOJT担当者でも一定の品質で指導しやすくなり、若手・中途社員の早期立ち上がりにもつながります。
さらに、指導内容を行動として整理することで、現場の育成状況の可視化や、研修とOJTを連動させた仕組みづくりも可能になります。
7.OJTを属人化させないために、管理職研修・部下指導研修で「教え方」を扱う
OJTのばらつきを減らすには、現場の管理職や指導担当者の個々の工夫に委ねるだけでは限界があります。
何を教え、どの行動を確認し、どのようにフィードバックするのかを、管理職が共通言語として学ぶ機会が必要です。
管理職研修では、1on1、評価者研修、目標管理、ハラスメント防止など、さまざまなテーマが扱われます。
これらはいずれも重要ですが、日常業務の中で部下に「何を、どのように教えるか」まで具体化されていなければ、現場の指導行動は変わりにくいものです。
次のような状態がある場合は、管理職研修のテーマとして「教え方」を扱う意義があります。
- 「もっと考えて」「主体的に動いて」など、抽象的な指導で終わっている
- 管理職が教えたつもりでも、部下の行動が変わっていない
- 1on1で話は聞いているが、次回までに取るべき行動が具体化されていない
- OJTで、最初に何を見せ、何をやらせ、どこを確認するかが指導担当者によって違う
- できる社員のやり方が暗黙知のままで、他の社員が再現できる形になっていない
- 管理職自身が「見て覚える」形で育ってきたため、部下に教える内容や判断基準を言語化しきれていない
こうした課題は、管理職の意識やコミュニケーション力だけで解決するとは限りません。必要なのは、成果につながる行動を分解し、部下が実践できる形で伝え、実行状況を確認することです。

管理職研修で重要なのは、受講者が内容を理解することだけではありません。職場に戻った後、日常の指導場面で実際に行動を変えられるかが問われます。
だからこそ、「部下育成の重要性を理解する」だけでなく、日々の業務の中でどのような指導行動を取るのかまで具体化する必要があります。
その意味で、行動科学にもとづく「教え方」は、単なる部下との関わり方ではなく、現場の育成を再現可能にするための実践的なテーマといえます。
8.まとめ|管理職の指導力は、再現性のある「行動」に落とし込める
管理職の指導力は、経験やセンスだけに依存するものではありません。
部下に期待する成果を、具体的な行動に分解し、実践しやすい形で伝えることで高めることができます。
部下育成がうまくいかないときは、「やる気がない」「能力が足りない」と捉える前に、どの行動が不足しているのか、どの行動を増やせば成果につながるのかを確認することが重要です。
行動科学の視点を取り入れることで、管理職の指導は精神論や経験則に頼るものではなく、再現性のあるものに近づきます。
これは、管理職の部下指導力向上だけでなく、OJTのばらつき解消や若手・中途社員の立ち上がり支援にもつながります。
管理職の指導力を高めたい、部下育成やOJTのばらつきをなくしたいとお考えの方は、行動科学にもとづく指導方法を体系的に学ぶ機会を設けてみてはいかがでしょうか。
部下指導やOJTの質を高める管理職研修を検討されている方は、「“できる社員”を育てる『教える技術』」もあわせてご覧ください。
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