目次
はじめに:属人化の解消は、現場だけでなく人材育成の設計課題
「あの人がいないと仕事が回らない」
「OJTが担当者によってばらつく」
「マニュアルはあるのに、現場では結局使われていない」
こうした状態に課題感を持ちながらも、何から手をつければよいのか分からない人事・人材開発担当者は少なくありません。
現場で起きている問題に見えても、こうした業務の属人化の状態を放置すれば、若手育成の停滞、OJT品質のばらつき、引き継ぎの非効率、さらにはベテラン社員の技術やノウハウが継承されないといった問題につながります。
つまり、属人化の解消は単なる現場改善ではなく、育成の仕組みづくりの問題でもあります。
属人化は現場で起きるものですが、それを再現性のある育成や継承の仕組みに変えていくのは、人事・人材開発の役割です。
本記事では、属人化の原因を整理しながら、なぜマニュアルやOJTだけでは解決しにくいのか、そして人材開発としてどう向き合うべきかを解説します。
第1章:属人化が起きる職場で、何が問題になるのか
属人化の解消というと、「特定の人しかできない仕事を減らすこと」と捉えられがちです。もちろんそれも重要ですが、実際には影響はもっと広く、日々の業務運用だけでなく、育成や継承のあり方にも及びます。
経済産業省の「2024年版ものづくり白書」でも、製造業における人材確保・育成や能力開発は重要なテーマとして扱われています。属人化の問題を、単なる業務整理ではなく、人材育成や知識継承の課題として捉える必要があるのは、こうした背景があるためです。
そのため、属人化の防止を考えるときは、「業務を誰でもできるようにする」という視点だけでなく、「教え方や知識共有まで含めて、組織として再現できる状態にする」という視点が欠かせません。
まずは、属人化が起きる職場で実際に何が問題になりやすいのかを整理します。

1.業務が特定の人に依存し、引き継ぎが難しくなる
もっとも分かりやすい問題は、担当者が不在になったときに業務が止まりやすくなることです。異動や退職、休職が起きるたびに引き継ぎに時間がかかり、周囲の負担も増えます。
こうした業務の属人化が進むと、単に担当者が変わるだけでなく、業務品質や対応スピードまで個人に依存するようになります。
結果として、現場は「誰が担当するか」で成果が変わる状態になり、安定した運用が難しくなります。
2.OJTが担当者任せになり、育成の質にばらつきが出る
属人化は、業務だけでなく育成の場面にも起こります。たとえばOJTでは、教える人によって内容や順番、説明の粒度が変わりやすく、若手や中途社員の立ち上がりに差が出ます。
本来、OJTは現場での学びを支える重要な育成手法です。ところが、制度として十分に設計されず、現場の善意や個人の力量に任されていると、「教え方の属人化」が進みます。
その結果、同じ部署でも育成の再現性がなくなり、人によって成長スピードが大きく変わる状態になってしまいます。
3.マニュアルが形骸化し、若手が育ちにくくなる
属人化が進んだ職場では、マニュアルがあっても十分に機能しないケースが少なくありません。
手順書は存在していても、実際の現場運用とずれていたり、更新されないまま放置されていたりして、結局は「分からなければ詳しい人に聞く」状態が残ります。
この状態では、若手は自分で確認しながら仕事を進めることができず、学びも蓄積されにくくなります。
マニュアルがあるのに育たない、という状況の背景には、単に文書が不足しているのではなく、知識の共有がうまく仕組み化されていない問題があります。
4.ベテラン社員の技術やノウハウが継承されにくくなる
属人化が続くと、ベテラン社員の技術やノウハウも継承されにくくなります。
現場で長年培われた工夫や見極め、対応のコツは、文書化されないまま本人の中にとどまりやすく、そのまま異動や退職を迎えると組織から失われるおそれがあります。
属人化は、単に「引き継ぎが大変になる」だけの話ではありません。OJTのばらつき、マニュアル形骸化、若手育成の停滞、ベテランの技術継承の難しさまで広く影響します。
だからこそ、この問題は現場だけに任せるのではなく、人事・人材開発が育成の仕組みとして捉え直す必要があります。
第2章:属人化の原因は、経験・勘・コツが言語化されていないこと
では、なぜ属人化は起きるのでしょうか。
多くの場合、属人化の原因は「手順書がないから」「引き継ぎが足りないから」と考えられがちです。もちろんそれも一因ですが、本質はそれだけではありません。
実際に共有されにくいのは、仕事の背景にある経験・勘・コツです。
つまり、表面的な業務手順ではなく、「どう見極めるか」「どこで判断するか」「何に注意しているか」といった、言葉にしにくい知識が個人の中にとどまっていることが、属人化の大きな原因になっています。
1.手順書だけでは、属人化はなくならない
たとえば同じ業務でも、経験者は状況に応じて優先順位を変えたり、例外対応をしたり、危険な兆候を早めに察知したりしています。こうした実務上の工夫は、単純な手順書だけでは共有しきれません。
そのため、マニュアルを整備しても、現場では「書いてある通りにやってもうまくいかない」と感じることがあります。
すると結局、詳しい人に確認するしかなくなり、業務の属人化の状態が残り続けます。
2.本当に共有しにくいのは、経験・勘・コツである
ベテランや中堅社員が持っている知識の中には、本人にとってあまりにも当たり前で、あえて説明していないものが多くあります。
たとえば「このタイミングで声をかける」「この違和感があったら確認する」「この順番で進めたほうがトラブルが少ない」といった感覚的な知識です。
これらは、現場の経験の中で培われたものであり、言葉にしにくい一方で、実務では非常に重要です。
にもかかわらず、言語化されないままだと、できる人にはできるが他の人は再現できない、という状態が生まれやすくなります。
3.「見て覚えろ」が残る職場ほど、知識が人の中に閉じている
「背中を見て覚えろ」という文化が残る職場では、教える側も必ずしも悪意があるわけではありません。むしろ、自分が無意識にやっていることをうまく言語化できないため、結果として「見て覚えてほしい」という伝え方になってしまうのです。
しかし、この状態では教え方が人によって変わり、OJTの品質は安定しません。若手にとっては、何をどう学べばよいのかが分かりづらく、成長実感も得にくくなります。
つまり、属人化しているのは業務だけでなく、知識の伝え方そのものでもあるのです。
属人化が解消しにくいのは、単に業務手順が不足しているからではありません。仕事の背景にある経験・勘・コツが言語化されず、人の中に閉じたままになっていることが、根本的な原因です。
ここに手をつけなければ、表面的にマニュアルを増やしても、属人化は残り続けます。

第3章:なぜマニュアルやOJTだけでは属人化が解消しないのか
ここまで見てきた通り、属人化の背景には、言葉になっていない知識の存在があります。では、なぜ多くの企業で行われているマニュアル整備やOJT強化だけでは、属人化の防止がうまく進まないのでしょうか。
理由は、情報そのものはあっても、それが育成や共有の仕組みとしてつながっていないからです。マニュアルを整備しても、OJTを強化しても、それぞれが別々に運用されていれば、属人化の解消にはつながりにくくなります。
1.マニュアルに「なぜそうするか」が書かれていない
マニュアルに書かれているのは、業務手順や操作方法が中心になりやすいものです。しかし実務で重要なのは、「なぜこの順番なのか」「どこに注意すべきなのか」「どんな兆候があれば確認が必要なのか」といった判断の背景です。
この部分が抜けたマニュアルは、最低限の作業手順を知るには役立っても、実務の再現性を高めるには不十分です。
そのため、現場では結局「詳しい人に聞く」ことになり、マニュアルがあっても属人化が残ります。
2.OJTが制度ではなく、教える人の善意に依存している
OJTも同様です。担当者は決まっていても、何をどこまで教えるのか、どの順番で習得させるのか、どの状態を「できる」とみなすのかが曖昧なままだと、育成の質は担当者によって変わります。
特に忙しい現場では、教育は後回しになりやすく、OJTはどうしても個人の善意に依存しがちです。すると、熱心に教える人のもとでは育つが、そうでない場合は成長が遅れる、といった差が生まれます。
3.人によって教え方が違うから、再現性が生まれない
マニュアルとOJTが別々に存在しているだけでは、組織としての再現性は生まれません。
マニュアルに書かれていることと、現場で教えられていることが一致しない。教える人によって説明も判断基準も変わる。こうした状態では、若手育成も技術継承も安定しません。
つまり、属人化の問題は「マニュアルが足りない」「OJTが足りない」ではなく、それぞれが分断され、知識共有の仕組みとして設計されていないことにあります。
属人化を解消するには、マニュアルやOJTを単独で強化するだけでは不十分です。必要なのは、現場にある知識を整理し、それをマニュアル、OJT、共有の場へとつなげることです。
次章では、近年期待が高まっているAIやDXが、この問題にどこまで有効なのかを整理します。
第4章:AIやDXだけでは、属人化は解消しない
ここまで見てきたように、属人化の原因は単なる手順不足ではなく、現場にある経験やコツが言葉にならず、人の中にとどまっていることにあります。
そう考えると、近年注目されているAIやDXも、導入すればすぐに属人化の解消につながるとは限りません。
もちろん、AIやシステムが役に立たないわけではありません。FAQの整備やナレッジ検索、マニュアル作成支援など、活用の余地は大いにあります。
ただし、その前提として必要なのは、もとになる知識やノウハウが整理されていることです。
マッキンゼーによると、AI活用を全社に広げるには、個別の取り組みだけでなく、データを活用できる土台や社内の仕組みづくりが重要だとされています。
属人化の解消でも、知識やノウハウが整理されていないままでは、AIやシステムを導入しても効果を出しにくいでしょう。
たとえば、ベテラン社員が持つ経験や勘が言語化されていなければ、AIに学習させる材料そのものが不足します。
マニュアルに書かれていない判断の背景や、現場での見極めのポイントが整理されていなければ、検索しても必要な情報にたどり着けず、結局は「詳しい人に聞く」状態が残ります。
つまり、AIやDXは属人化の防止の手段にはなり得ても、それだけで問題を解決する魔法の杖ではありません。
先に必要なのは、現場にある知識を見える化し、共有できる形に整えることです。
業務の属人化を本気で見直すなら、まずは「何が人に張り付いているのか」を整理するところから始める必要があります。
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第5章:属人化を解消するために、人材開発ができる3つのこと
属人化は現場で起きる問題ですが、現場任せでは解消しにくいのも事実です。
なぜなら、現場は日々の業務を回すことが優先になりやすく、知識を整理し、共有し、育成につなげるところまで設計する余裕を持ちにくいからです。
だからこそ、属人化の解消は人事・人材開発が仕組みとして支える必要があります。
近年は、人材育成や知識継承も含めて、人的資本を経営戦略と結びつけて可視化・運用する視点が強まっています。
内閣官房の「人的資本可視化指針(改訂版)」でも、経営戦略と連動した人材戦略や、企業価値向上につながる人的資本投資の実践が重視されています。
属人化の解消も、現場だけの運用課題ではなく、人材育成や知識共有の仕組みとして捉えることが重要です。
では、人材開発は具体的に何をすべきなのでしょうか。大きく分けると、取り組むべきことは3つあります。

1.属人化している業務や知識を洗い出す
最初に必要なのは、どの業務が特定の人に依存しているのか、どの知識がブラックボックス化しているのかを整理することです。
単に担当業務を棚卸しするだけではなく、「誰が抜けると困るのか」「どこでOJTの差が出るのか」「どの工程で若手がつまずきやすいのか」といった観点で見ていくことが重要です。
属人化の問題は、見えていないままでは解消できません。まずは、業務の属人化が起きている領域を明らかにすることが、人材開発の最初の役割になります。
2.OJT・マニュアル・共有の場をつなげて運用する
次に必要なのは、施策を単発で終わらせないことです。マニュアルを整備しても、OJTに反映されなければ意味がありません。
OJTで見えてきたつまずきが、マニュアルの更新やナレッジ共有に反映されなければ、同じことが繰り返されます。
属人化を防ぐには、マニュアル、OJT、共有の場をそれぞれ別の施策として扱うのではなく、育成の流れとしてつなげる必要があります。
そうすることで、教え方のばらつきや、知識共有の抜け漏れを減らしやすくなります。
3.属人化対策を、個人任せでなく仕組みにする
最後に重要なのは、属人化対策を現場の善意や個人の努力に委ねないことです。
たとえば、「教えるのが上手な人」がいる職場では一時的にうまく回るかもしれませんが、その人が異動すれば元に戻ってしまいます。それでは属人化の防止にはなりません。
必要なのは、教えるべき内容や順番、共有のルール、更新のタイミングなどを、組織の仕組みとして位置づけることです。
人材開発は、こうした仕組みづくりを通じて、現場で起きている課題を再現性のある育成へとつなげる役割を担います。
属人化の解消は、現場の負担を増やすことではなく、現場が無理なく知識を共有できる形に変えていくことです。その設計を支えることこそ、人材開発に求められる役割だといえるでしょう。
第6章:属人化解消は、人材開発の仕組みづくりから始まる
では、実際に属人化の解消に着手する場合、どこから始めればよいのでしょうか。
重要なのは、すべてを一気に整理しようとしないことです。影響の大きい業務や、育成の差が出やすい領域から優先順位をつけて進めるほうが、現実的で成果にもつながりやすくなります。
たとえば、OJTで毎回つまずきが起きる業務、担当者が変わるたびに引き継ぎ負荷が高まる業務、ベテランや中堅社員への依存度が高い業務などは、優先的に見直す対象になりやすいでしょう。
こうした領域では、単に手順を文書化するだけでなく、現場で実際に何を見て、どう判断しているのかまで整理することが求められます。
その際に大切なのは、見える化を目的にしないことです。整理した内容を、OJTの設計、マニュアルの更新、共有の場づくりにつなげてはじめて、属人化の原因への対処になります。
見える化はスタートであって、ゴールではありません。
とくに、ベテラン・中堅社員が持つ経験知は、重点的に扱う価値があります。
本人にとっては当たり前になっている工夫やコツほど共有されにくく、若手育成や引き継ぎに影響しやすいからです。
だからこそ、現場任せではなく、人材開発が関わりながら整理を進めることに意味があります。
■ 関連プログラム

属人化の背景にある経験知を整理し、OJT改善や業務標準化につなげたい場合は、研修という形で見える化を進める方法もあります。
暗黙知見える化プログラムのように、個人に蓄積された経験・勘・ノウハウを整理し、組織で活用できる形に変えていくアプローチは、属人化解消の具体策の一つとして検討しやすいでしょう。
まとめ:属人化を防ぐ鍵は、経験やコツの見える化にある
属人化の解消は、単に「あの人しかできない仕事を減らすこと」ではありません。
背景にある経験やコツ、教え方のばらつき、共有されていない知識まで含めて見直し、個人に閉じたものを組織で扱える形に変えていくことが重要です。
そのため、マニュアルを増やすだけでも、OJTを強化するだけでも不十分です。
AIやDXも有効な手段ではありますが、もとになる知識が整理されていなければ十分に機能しません。属人化の防止のためには、まず「何が人に依存しているのか」を見える化し、それを育成や共有の仕組みに落とし込む必要があります。
そして、この取り組みは現場だけでは進めにくいものです。
属人化を、引き継ぎや業務整理の問題で終わらせず、人材育成や知識共有の仕組みとして捉え直すことが、人事・人材開発には求められています。
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