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リモートワークが急拡大してから3年、もう不慣れな環境を言い訳にすることはできません。今の働き方の中で、限られた人・時間で価値を生み出すには、組織の中でもっとも多くの時間が費やされている会議の改革が急務です。参加者が闊達に意見を出し合い、納得して動ける会議には、ファシリテーターにも、参加する側にも共通した意識改革と前提共有が必要です。会議で人を巻き込む型とスキルを身につければ、明日から社内の会議が一変させることができるのです。
本コラムでは、拙著『ゼロから学べる! ファシリテーション超技術』から、意見を集め、可視化し、決断に導くファシリテーション術を紹介します。研修導入をご検討の方もぜひお読みください。
ファシリテーションとは?
●ファシリテーション:会議を円滑に進行する
●ファシリテーター:ファシリテーションを行う人
ファシリテーターは、「会議が円滑に行われるよう、そのプロセスをリードし、活発な意見が出る“場づくり”を演出する役割を担う人」のことです。
ファシリテーターには、
①会議をデザイン(設計)できるか
②会議をリードできるか
③“場づくり”ができるか
会議における課題~ファシリテーション力強化が求められる理由~
これまでに会議に出席して、次のような困った経験をしたことはありませんか。
・会議が長い
・まとまらない/結論が出ない
・脱線する
・意見が出ない/本音が出ない
・会議全体の雰囲気が悪い
・目的が不明確
・話が長い人がいる
・ネガティブな発言をする人がいる
・事前準備不足
・無関心な人がいる/内職をしている人がいる
良い会議を行うには条件があります。「時間厳守」「決まる・まとめる」「参加者の納得度が高い」という3つの条件を満たす必要があります。特に重要なことは参加者の納得度で、会議終了後に現場に戻って、実行するか否かは納得度が大きく影響します。
ファシリテーションは、正解がどこにあるのかを探るようなことから始める仕事なので、様々な人たちの声をしっかりと聞く必要があります。チームメンバー、関係者などのたくさんの仲間を巻き込み、問題解決という一つの目標達成に向かって進んできましょう。
3つのファシリテーションスキル
①会議をデザイン(設計)できるか
ファシリテーターは、単に会議を進行する人ではありません。会議の必要性や目的を明確にし、その達成のために「議論の順番を組み立てる」ことが必要です。会議前に、テーマについてアジェンダ(会議の進行表)を作ります。どのような順番で進め、どのように議論すれば結論に至り、参加者全員が納得できるのかについてもおおよそ設計しておきます。
②会議をリードできるか
ファシリテーターは、事前に用意したアジェンダに沿って、会議当日に進行します。どのような順番で誰に発言してもらうか、どのように意見を整理するか、どのように時間管理をするかを考えながら、アジェンダで決めた内容を確実に進めるのがファシリテーターの役割です。全体を俯瞰しているつもりでも、予期せぬ方向へ進んでしまうことが発生します。その都度、軌道修正を行いながら会議のゴールに導きます。
③“場づくり”ができるか
ファシリテーターが眉間にしわを寄せて難しい顔をして、会議を進行していたら、意見は出にくいと思います。上司と部下が会議に同席していると、ポジションパワーが出やすくなります。威圧的な雰囲気が出ないよう、意識しましょう。
会議の成否を決めるアジェンダの事前準備
アジェンダには次の項目を含めた構成としましょう。
①会議名称
会議名を記入します。
②会議基本情報
日時、場所、参加者名、ファシリテーター名を記入します。
③会議の目的・ゴール
会議の目的・ゴールを明確に記入します。アジェンダを作成するときに最初に考える部分であり、参加メンバーの選定、議題の構成などすべての基準となるものです。目的やゴールが曖昧だと、会議自体も結論がわからないまま終わってしまいます。「〇〇における方向性を決める」「〇〇の現状について整理・可視化する」「提案書に載せる要素を洗い出す」「〇〇研修のコンセプトを決める」「〇〇導入における懸念点を整理・可視化する」など、会議で何がしたいのかを具体的に書きます。
④進行内容
目的・ゴールを達成するために、どのような議論をすべきかを踏まえて構成します。「オープニング」「情報格差を埋める」「議論内容」「クローズ」の4つの議題です。
会議の主催者、管理職、部門ごとに参加者の立場によって情報量に格差があります。議論を行う場合は、議題の背景や現状など参加者間で情報が共有されないと、議論が進みません。また、会議の最後に、決定事項や今後のアクションについて確認する必要がありますので、忘れないようにアジェンダに記入します。
⑤タイムスケジュール
タイムスケジュールは、議題ごとに「〇時〇分~〇時〇分」という時間設定、所用時間が一目でわかるように記入します。「約〇分」という書き方ではなく、5分刻みで具体的な時間を設定することで、会議当日の時間厳守の意識が高まります。
問題解決のためのファシリテーション・ステップ
戦略会議、企画会議など問題を特定し、原因を洗い出し、解決策を検討・決定する会議がありますが、解決策が決まらずに会議が終わってしまうというケースをよく聞きます。多くの場合、原因の洗い出しを行わずに、いきなり解決策を話し合おうとしています。
「問題」は、あるべき姿と現状のギャップです。問題を解決するために、まずはあるべき姿と現状のギャップにスポットをあて、そのギャップを埋めるには何をすればいいかを考えます。問題解決には、問題発見、原因分析、解決策の選定、計画の策定の4つのフェーズに分けた8ステップのフレームワークを用いると、解決に導くことができます。
意見を引き出す議論の進め方
①一人ずつ順番に聞いて、意見を引き出す
会議で意見が出ないという課題は多くの企業で抱える課題です。理由として、本当に「意見がない」こともありますが、「意見はあるけれども、この場では言うのをやめよう」と意図的に発言しないことが多いのではないでしょうか。意見を言わない人に対する対策として効果的なことは「一人ずつ順番に聞く」ことです。「何か意見のある人はいませんか?」と全体に問いかけると、「誰かが答えてくれるだろうと」思い、傍観者が急増します。一人ずつ聞く方法であれば、必ず自分が発言する順番が回ってくるので、真剣に会議に参加するようになります。
②メンバーの意見を最大限に引き出すポイント
・答えやすい質問をする
・「一言ずつ」「1分で」というフレーズを入れ、延々と話す人が出ないようにする
・「パスあり」をOKとし、本当に意見がない人の逃げ道をつくる
・質問の内容によっては2~3周する
・笑顔で問いかける
・参加者の回答には絶対に否定しない。100%受け入れる
・出してくれた意見にポジティブにリアクションする
安心安全の場づくりを心掛け、誰もが意見を述べやすい状態にしておくことが大切です。
③意見を可視化で整理する
意見を引き出すことができたら、それらの意見を整理することが必要です。
まずは、意見をホワイトボード、オンラインツールの画面共有の機能などを用いて、出された意見を書きだします。次は、ロジックツリーのようなツリー状、マトリックス(表)、時間軸などで整理します。その際もMECE(モレなくダブリなく)を意識して、問いに対する意見が十分に洗い出されているかの視点も大切です。
会議での合意形成の仕方
合意形成のためには、「決め方」「粒度」「基準」の3つを揃えられるかがポイントです。
①決め方の種類
全会一致、多数決、リーダーによる決定などの方法があり、それぞれにメリット/デメリットがあります。全会一致は、全員の納得は得られますが、一致するまでにかなり時間がかかります。多数決は、手を挙げるだけなので短時間で終わりますが、少数派の人の排除感が残り、参加者の納得度が低くなってしまいます。リーダー(ファシリテーター)による決定も短時間で決まりますが、経験がなかったり、信頼されていなかったりなどリーダーの資質によっては、参加者のモチベーションが下がってしまいます。
そこで、おすすめの決め方は「全会一致×リーダーによる決定」の組み合わせです。時間を区切り、その時間内は全会一致を目指します。リーダーは、時間内は可能な限り、参加者の意見に耳を傾けます。終了時間になっても全会一致ができなかった場合はリーダーが決めるというルールとし、それを事前に参加者に伝え、合意を得ておきます。
この方法で実施すると、参加者は自分の意見もしっかりと聞いてもらえたこともあり、納得できます。
②決定事項の粒度
合意形成では、方向性から具体的な作業内容まで、いろいろなことを決めていきますが、「どうしてこんなに細かいところまで決めるの?」「大雑把すぎてどう行動すればいいかわからない」と思ったことはありませんか。粒度の基準は「参加者が会議終了後に、作業する上で困らないレベル」と定義しています。それぞれが職場に戻った時に、仕事の方向性を理解でき、かつ自分は何をすればいいのかを明確に把握している状態をつくれるレベルです。経験が浅い/ベテランなど参加者によって、柔軟に粒度を決めていきましょう。
③基準の重要性
人は物事を決めるときに何かしらの基準に基づいて判断しています。人によって基準が異なるため、他者と意見が分かれるのです。基準を可視化した上で、お互いの共通ポイントを探すことができれば、一気に合意形成に近づきます。
基準を整理する際に、意思決定マトリクスが役立ちます。各自の意見と、その理由など基準となるものを表にまとめ、点数をつけて可視化することで、全員が納得する方向が見つかります。
意見を集め、可視化し、決断に導くファシリテーション術をお伝えしました。組織の中でもっとも多くの時間が費やされている会議を改善することで、限られた人・時間で価値を生み出せるようになります。研修導入をご検討の方はお問い合わせください。