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コロナ禍でのテレワークの推進により、ビジネスパーソンの働き方は大きく変わりました。慣れないチャットのコミュニケーションに苦戦したり、テレワークではなかなか集中できず意図せず仕事の生産性が落ちている、といった話もよく耳にします。
本コラムでは、拙著『成果を増やす 働く時間は減らす 高密度仕事術』から、いつ、どこにいても、質の高い仕事ができる高密度仕事術のポイントをお伝えします。現在、企業の若手~中堅層に向けて、高密度仕事術を習慣化させるための研修も行っています。研修導入をご検討の方もぜひ参考にしてください。
高密度仕事術とは?
私は、習慣化コンサルタントとして、300社を超える企業で働き方の習慣を変える体系的なメソッド「高密度仕事術」を用い、多様な職種のビジネスパーソンの働き方を現場レベルで改善してきました。仕事の高密度化とは、単なる時短ではなく、成果を高めながら、日常業務を圧縮(効率化)していくことです。
会議が長い、退社しづらいなど、個人ではすぐに変えられない組織的な習慣もありますが、本コラムでは、「個人」が取り組みすぐに生産性を上げられる習慣についてお伝えしていきます。働く習慣を変えるのは簡単ではありません。しかし習慣が変われば、恒常的に生産性が上がり、ワークライフバランスもうまく回りだします。
仕事の密度が高まると得られる3つの効果
仕事の密度が高まると得られる3つの効果を紹介します。ダラダラと働いてしまったり、残業時間を減らすことだけに目を向けず、「自らの人生や生活を理想的にしたい」という能動的な動機をもち、高密度化を習慣にしていきましょう。
効果1:時間に対する主導権を取り戻せる
人は、身の回りの出来事に振り回されているときにストレスを感じます。一方、自分で時間をコントロールし、時間に対して主導権を握っている感覚が得られているときは、ストレスは最小化します。同じ業務でも、取り組み方のストレスの有無では生産性が変わってきます。流されるままに、振り回されて仕事をするのではなく、目的意識と主体性を持ち、時間に対する主導権を取り戻すことで、ストレスも激減し、高密度な仕事ができるようになります。
効果2:人生の「豊かな時間」が増える
仕事の高密度化は「すべきことに追われる生活」から抜け出し、「やりたいことを追求する生活」を過ごすキッカケを作ります。多くのビジネスパーソンの悩みは「自分の時間がない」ことです。同じ成果を出しながら働く時間を圧縮して生み出した時間は、あなたの幸福度に大きな影響を与える「豊かな時間」になります。プライベートを充実させる、創造的な仕事に投資してみる、など、「豊かな時間」が増えていくのです。
効果3:どこでも通用する仕事力が手に入る
仕事力とは、より少ない時間でより大きな成果を出し続ける能力だと私は考えます。「仕事の高密度化」への取り組みは、仕事力を高める最高のトレーニングです。変化の激しい時代で、必要とされる人材になるよう仕事力を磨きつづけることで、市場価値の高い能力を手に入れることができます。
高密度化するための3つの原則
原則1:成果の最大化と業務の効率化は分けて考える
生産性を高めるには、「成果」と「効率」の両方を追求することが重要です。しかし、良い成果を出すためには、業務効率の積み上げだけでは限界があます。これらの施策は、打ち手が異なるのです。それぞれ具体的な施策は、次章に書いていきます。
原則2:時間に制限をかけると高密度化が始まる
誰しも、自分のペースで仕事を進めたほうが精神的に安全・安心を感じ、それを習慣にしてしまいがちです。裏を返せば、緊張感や危機感がない状態で働くため、ペースを変えようと思いにくいものです。
そこで、働く時間やタスクの制限時間を設けてタイムプレッシャーを作り出してみましょう。緊張感や危機感がうまれ、知恵と集中力が湧いてきます。優先順位をつける精度が上がるなど、短時間集中の仕事スタイルに変わっていきます。
原則3:見える化すれば人は改善したくなる
時間の使い方を改善するには「見える化」がポイントです。レコーディングダイエットが効果的だといわれているとおり、人の脳は、見える化された事実を改善したくなるようにできています。時間の見える化をし、事実として問題を認識することで、適切な改善策を講じることが習慣になっていきます。
仕事の成果を最大化する5つのステップ
上記の原則1で述べたとおり、仕事の生産性を高めるには、「成果の最大化」と「業務の効率化」の2つのアプローチが必要です。コツコツと「小さな改善」を積み上げることで、効率的な働き方を習慣化し、生産性を高めることは可能です。しかし、成果を最大化するには、ある程度長い時間の視野で成果を考えることが重要になってきます。「仕事の成果の最大化」を実現するための5つのステップを解説していきます。
ステップ1:価値ある仕事を増やす
パレートの法則(80:20)をご存知でしょうか?イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した法則で、売上の80%は上位20%の顧客によってもたらされているという現象を語るときによく例として出します。仕事でも80%の成果を握る20%の行動があります。つまりその20%の仕事にこそ力を注ぐべきであり、本質的に価値のある仕事だと言えます。
注意しなければいけないのは、成果を左右する重要業務のほとんどは、緊急性がないものだということです。突発業務に振り回されていてばかりでは、仕事の成果の最大化はできません。まず一番はじめにすべきことは、「価値ある仕事」とは何かを定義し優先することです。次の項目は、その「価値ある仕事」の一例です。
・仕事を始める前に計画を立てる
・1週間を振り返り改善行動を考える
・部下の悩みや相談を聞く
・会議前にしっかり準備する
仕事の計画を立てたり、振り返ったりすることは、無駄を減らすことに直結します。部下とは、日常的に信頼関係を築いておけば、突然の退職やメンタルダウンを防ぐことに繋がります。会議前に議題に対して自分の意見を考えていれば、口下手でも発言できます。
これらの仕事は、日々忙殺されていると手がつかないような業務ばかりですが、優先して行うことで1年の仕事の成果は最大化します。
ステップ2:退社時間を死守する
退社時間のコミットは仕事を高密度化する要といえます。長時間残業が習慣になっている人にとっては、それが「いつも通り」のやり方になっており、心理的には楽だったりするため、生産性の悪い働き方から脱却することができません。だからこそ、時間に制限をかけて、良い緊張感をつくることが大切です。
あなたは、退社後に約束がある日、何としても退社時間を守れるよう効果的に仕事を進めた、という経験はありませんか?この現象は、火事場の馬鹿力という表現がぴったりです。火事場の馬鹿力とは「とてつもなく追いつめられたときに、人は通常では考えられないほどのパワーを発揮する」という意味で使われます。退社時間を死守する習慣をつけ、脳に火事場の馬鹿力を意図的に出させることを促します。そうすることで緊張感を危機感が生まれ、高密度化への画期的な解決策や行動を生み出すことができます。
ステップ3:朝に集中するリズムを作る
生産性が高い人ほど「朝一番から最重要の仕事に手を付ける」ことを実践しています。
朝は、集中力の源である脳のエネルギーが充電されている状態のため、企画力や発想力が必要な業務や高度な判断が求められる仕事に取り組むと、生産性が高くなります。いつもより少しだけ早く出社してみる、朝15分だけ重要な仕事に手を付ける、などできるところから少しずつ朝を活用していきましょう。
ステップ4:仕事を断捨離する
働く時間には限りがあります。どんなに処理スピードを上げても、仕事の総量を減らすことに着手しなければ、本当に重要な仕事に時間を使うことはできません。
そこで、片付けで大ブームになった「断捨離」に仕事を当てはめてみます。
・断:周りから入ってくる余計な仕事を断つ
・捨:日常業務で不要な仕事・付加価値が低い仕事を捨てる
・離:余計な仕事への独自のこだわり・執着から離れる
そして仕事の断捨離には3つの戦略があります。
・戦略1:<なくす>:無駄な時間をとにかくなくすこと
・戦略2:<減らす>:メール返信、報連相、休憩など、なくせはしないが余計にかかっている時間を減らすこと
・戦略3:<任せる>:部下やメンバーに任せることで、自ら抱える仕事の総量を減らすこと
これらを意識することで、力の入れどころと抜きどころが明確になります。さらに、いかに時間を有効に使うか、どんな風に部下に仕事を任せるか、自ら考え工夫して行動することで、成果の最大化をめざします
ステップ5:やり方を抜本的に見直す
誰しも、仕事には「いつものやり方」があり、見直すことなくいつまでも同じ手順で進めてしまいます。それでは、凝り固まったパターンにハマってしまい、非効率な手順を改めることはできません。以下3つの切り口で「いつものやり方」を見直してみましょう。
「手順をシンプルにする」
いつもの業務手順を書き出して見える化してみます。余計なステップが見えてきて、手順を簡略化することができます。
「全く新しいやり方にする」
生産的に仕事を進めているメンバーの働き方を採り入れるのが、最も効果的です。例えば議事録作成の際、あなたが何時間もかけてICレコーダーの内容を文字起こししていたとします。一方、パソコンを会議に持ち込み、リアルタイムで議事録を作成し、会議終了後すぐに共有するメンバーや、ホワイトボードの記録を写真に撮って全員に共有しているメンバーがいたとします。ぜひそのやり方を採り入れてみましょう。初めのうちは、失敗や試行錯誤もあるかもしれませんが、新しいやり方を模索することが、生産性を高めるポイントになります。
「省エネで仕上げる」
脳はゼロから考えることにエネルギーを相当消費します。繰り返しの作業がある場合は、手順を仕組み化し、省エネで取り組みましょう。
日常業務を効率化する5つのスキル
繰り返しになりますが、仕事の生産性を高めるには、「成果の最大化」と「業務の効率化」の2つのアプローチが必要です。この章では、効率化を妨げる原因を解消する5つのスキルを紹介します。
スキル1:ゴールイメージを決める
仕事の完成形が曖昧なまま着手すると、無駄な作業が増え、相手のニーズや目的から外れた努力に時間を費やすことになります。
例えば、つくりながら構成を考えて仕上げた資料は、情報を盛り込みすぎてしまい、量が膨大になることがあります。また、問い合わせされるまま資料をつくり、結果的に必要ではない情報がほとんどで、肝心な情報が漏れていた、といったケースも多々あります。
これらはすべて、ゴールイメージを決めずに着手した結果です。
資料作成に焦り、プロセスに集中してしまうと、全体像が見えなくなります。まずは落ち着いて、目的やニーズにフォーカスしてゴールイメージを決めることが大切です。投入できる時間を算出し、最低限必要な情報を定義して仕事を進めましょう。
スキル2:優先順位を明確にする
生産性が低い人は、つい欲張って、先々の仕事の心配を今日全て解消しようと、あれこれ手をつけてしまいます。逆に生産性の高い人は、今日絶対にすべき仕事を見極め集中し、決めた退社時間に仕事を切り上げることができます。
まずは、優先順位を決めましょう。正しく優先順位を決めるには、感覚ではなく現実のスケジュールと向き合うことがポイントです。期日がある仕事、動かせない予定・タスクを見える化してみると、自由に使える余白時間が明確になります。その余白時間にすべきことは何か、取捨選択していきます。
優先順位の判断として活用しやすいのが、マトリックスです。
緊急度が高い⇔急ぎではない、他人と連携する⇔自己完結できる、など自分の仕事に合った軸で優先順位のマトリックスをつくり、最優先すべき仕事から手をつけていきましょう。同時に、優先しなくてもよい仕事にたいしては、やめる、減らす、任せる、明日に持ち越す、など手放すことも考えていきます。
スキル3:シングルモードで集中する
複数の仕事(マルチタスク)に同時に手をつけていると、複数の仕事に意識が分散(マルチモード)し、生産性が低下します。カリフォルニア大学アーバイン校の研究では、「一度注意がそがれると、集中力を取り戻すには23分かかる」と言われています。
高い集中力が発揮できる、シングルタスク、シングルモードで仕事できる環境をつくり、効率よく仕事を進めましょう。
以下に、シングルタスク、シングルモードになるための2つの工夫を紹介します。
・余計なノイズをなくす:メールや使用ツールを閉じ、スマホはマナーモードにするなど
・カウントダウンタイマーで制限時間を設定する:カウントダウンが始まると、目の前の1つの仕事に集中するモードに入りやすくなる
また、「短時間細切れ集中法」もお勧めです。これは「短時間・高集中」のリズムをつくるもので、仕事を「15分単位」で分解して取り組みます。例えば資料作成のタスクの場合、「15分で構成を作成する」「15分で過去の資料集め」「15分でキーメッセージ作成」という具合に細切れのシングルタスクを短時間で達成していくのです。達成感の積み重ねでモチベーションも高まり、効率よく仕事を進めていけます。
スキル4:突発業務をコントロールする
仕事で最も悩ましいのは、急な依頼、トラブル、クレームといった突発業務です。これらは、予測不能であり、プランに盛り込めません。現実の仕事では、複数の業務、多数の関係者、複雑なプロセスが入り組んでおり、タスクや時間の管理は複雑化することも多々あります。1日の仕事で起こることを完璧に予想することは不可能です。重要な規律を保ちつつ、突発業務は柔軟に対応しましょう。
ただしここで重要なのは、プランを完全に崩すのではなく、途中で修正していくことです。正しく軌道修正するために、対応ルールを持つことをお勧めします。
以下に、対応ルールの例をいくつか紹介します。
「5分で終わることは“今対応する”」
例えば、打ち合わせの日程調整は、よくある突発案件です。あとで調整しよう、と保留にすると、いざ調整しようとしたときにはメンバーは帰宅しており明日に持ち越しに。調整事項が多ければ多いほど、保留にすると大量の残務となっていくのです。そこで、対応が5分以内に終わると判断したものは、集中してその場で完了させましょう。時間・タスク管理も重要ですが、Todoリストに追加する、保留にしてタスクを増やす、よりも効率的な場合があります。
「こちらの都合に合わせて納期を調整する」
前項とは相反するようですが、突発業務を処理する時間を、こちらの都合の良いように調整するほうが効率的な場合もあります。
突発業務の緊急度、種類などを見極め、すぐに対応するよりも効率がよいと判断したら、自身の都合のよい対応時間や期日を相手に交渉してみましょう。すでに紹介したとおり、シングルタスク、シングルモードで集中して仕事をするほうが効率は高まります。集中すべき重要な仕事と突発業務を比べて、すぐに対応するか、後で対応するか、明確に判断できるようになりましょう。
スキル5:すぐやる
生産性が低い人は、「めんどくさい」「気が重い」というマイナスの感情に支配されて、結果的に不十分な対応になり、ミスがミスを呼ぶことに繋がっていきます。それを回避するためには、マイナスの感情を小さくして「とりあえず少しだけやってみよう」と着手し、初動を早めることが大切です。
すぐやる人になるための思考法として、「チャンクダウン(具体化する)」「ベビーステップ(小さい一歩で始める)」の2つを紹介します。
まず「チャンクダウン」とは、塊を小さくするという意味で、仕事を小さく分解しよう、ということです。人は、苦手な業務や複雑な業務に大きな心理的負荷を感じるため、どうしても後回しにしてしまい、納期ギリギリになって自ら抱えこむことになりかねません。たとえば、夏休みの宿題を例にします。「夏休みの宿題」は大きな塊として心理的負荷になります。でもこれを「ドリル」「感想文」「自由研究」と分解してみると、着手する気が起こってきませんか?
次に「ベビーステップ」です。人の脳は、行動が止まっているときにはやらない理由を積極的に考えます。一方、いったん動き始めるとやる理由をどんどん考えます。つまりとりあえず動き出すと、あとからモチベーションは自然と湧いてくるのです。「ベビーステップ(赤ちゃんの一歩)」のように小さな一歩でも、先延ばしへの魔法の解決法になります。気が重たい仕事に対しても、5分間だけ過去の資料を見てみる、フォーマットだけでも用意してみる、など、面倒でないレベルの初動の一歩を小さく設定してみましょう。そのあとの一歩を踏み出すモチベーションに繋がっていくはずです。
本コラムでは、拙著『成果を増やす 働く時間は減らす 高密度仕事術』から、生産性を上げるためのコツをお伝えしました。生産性を上げる方法を実践し、習慣づけていくことは、とても難しいことですが、まずは1週間、1か月、3か月と続けてみてください。きっと想定以上に良い結果が出てくるはずです。
高密度仕事術メソッドのより詳しい説明や事例は、研修内でお伝えしておりますので、研修導入をご検討の方はぜひお問い合わせください。