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部下に対して、「指示待ちだけで自分で考えて動けない」「自分の思いや指示がなかなか伝わらない」「会議で発言しないなど、やる気が感じられない」といった不満を感じることはありませんか?その不満の原因は、もしかしたら、指示する側(=上司)にあるかもしれません。「役職」や「肩書き」で人を動かすことができていた時代はおわり、今は「影響力」や「信頼関係」が人を動かす時代です。上司が部下を動かしていくためにまず必要なのは、部下との信頼関係を構築すること。
本コラムでは、拙著『指示待ち部下が自ら考え動き出す!』から、研修などを通じて1万人以上の企業のリーダーをサポートしてきた私が編み出した、部下育成の行動メソッド「行動イノベーション」をご紹介します。このメソッドは、脳科学とアドラー心理学を組み合わせた、独自の目標実現法です。研修でもお伝えしている内容をコラムとしてまとめていますので、研修導入をご検討の方も参考にしてください。
部下育成の課題~「指示待ち部下」が生まれる原因~
指示待ち、指示通り動かない部下が生まれる原因は、次のたった2つです。
・自身の業務を「やらされ仕事」と感じていて、イヤイヤ仕事をしている
→モチベーションの問題
・技術や経験不足のせいで自ら動けない
→スキルの問題
自身の業務を抱えているプレイングマネジャーが多い日本の企業では、上司は常に忙しく、部下と十分なコミュニケーションが取れず、部下が上司に相談しづらい環境になっていることが多々あります。
その環境下では、部下は上司に相談せず仕事を進めるようになり、ミスが増え、そのミスを上司が叱責し、部下のモチベーションはどんどん下がっていきます。さらに、上司は部下の能力やポテンシャルを正しく把握できていないため、適切な指導ができず、部下のスキルは一向に上がらない、という負のスパイラスルに陥ってしまいます。指示待ち部下は、動かないのではなく、動けないのです。
部下育成のポイント~「指示待ち部下」を自ら考え動く人材に育てるには~
ボトムアップ型の意思決定をする組織がふえた今、「自分の立場」で人を動かそうとしても、従う部下はほとんどいません。冒頭にもお話したとおり、今は「影響力」や「信頼関係」が人を動かす時代です。「この人は自分を理解してくれている」「この人は自分を認めてくれている」と部下が上司に感じた時、部下は初めて自ら考え動き出します。だからこそ、まずは部下と信頼関係をしっかりと構築しましょう。
では、どんな風に信頼関係を築いていけば良いのか?難しいマネジメントスキルは必要ありません。部下との関わり方を変え、質の良いコミュニケーションを取るだけでいいのです。ポイントは次の3つです。
ポイント1:相手そのものではなく、「相手の興味・関心」に関心を持つ
相手の話を聞く際には、意識の向けどころが重要です。部下そのものを覗き込むように意識を向けても、部下が余計話しにくい状況になってしまいます。おすすめなのは、部下の興味・関心に対して意識を向けてみること。そして、理解できる部分があれば徹底的に聞いてあげる。そうすると部下は「受け入れてもらえた」と感じ、心を開き始め、信頼関係を築くきっかけとなります。
ポイント2:共通点を見つける
部下の興味・関心に意識を向けたら、次は小さくてもいいので共通点を見つけてください。
共通点をきっかけに、楽しく雑談する時間が増えれば、自然と信頼関係は深まります。共通点が一つあるだけで、相手に急に親近感を覚え、安心感や信頼感を持った経験がある方も多いのではないでしょうか?
ポイント3:できていることを「承認する」
部下には、実力が足りず、不十分なこともたくさんあることと思います。しかし、その部分をダメ出しするだけでは、信頼関係は深まりません。上手に褒める必要はなく、できている箇所を見つけ、できたという事実を指摘してあげましょう。「この上司は、ちゃんと見てくれている」という安心感が、信頼関係を深めていきます。
部下育成コーチングメソッド「行動イノベーション・トーク」
「指示待ち部下」が生まれる原因のひとつに挙げた「モチベーションの問題」。日々の業務に忙殺され、疲弊し、やっつけ仕事が多くなってしまう、責任感から業務課題を一人で抱え込み、結果が出せずに結局指示待ち状態になってしまう、など、本人が望まないところでどんどんモチベーションが下がってしまう部下も多くいます。そんな部下に上司ができることは、達成感や成長を実感できる機会をつくることです。「心底実現したい!」と思える目標を部下自身に設定させ、その実現をサポートすることで、お互いの信頼関係も深まり、部下が自発的に動き出します。
ここで、具体的なサポートの手法「行動イノベーション・トーク」の5つのステップをご紹介します。
ステップ1:現在地を確認する
まずは、部下の現状を把握しましょう。具体的には、できていること、できていないこと、体調の良し悪しや悩みを把握します。その際のポイントは、「できている」「うまくいっている」などポジティブな側面の確認から始めることです。進歩を認めたうえで、次に進むべき方向を一緒に考えることで、前向きな作戦会議の場にすることができます。
さらに、現在地の確認は定期的に行ってください。そのたびに部下は、過去の自分と今の自分を比較することで成長を実感でき、自信をもって主体的に課題に対処できるようになります。
ステップ2:会社の目標と部下の役割を確認する
どんな会社にも目標や理念は存在します。しかしそれが、部下の個人的な目標と必ずしも一致するとは限りません。この矛盾を放置すると、部下は「自分は仕事に向いていない」「自分はこの会社には合っていないのではないか」とモチベーションを下げてしまいます。そこで大切なのが「役割」の確認です。
「会社の目標→部署の目標→部下自身の役割」を順に質問し、部下に説明させることで、会社の中での自分の役割が腹おちし、「やらされ感」があった仕事に「意味」が加わり、モチベーションが上がりだします。人は、アウトプットによって認識や理解が深まるので、上司が説明、説得するのではなく、部下自ら話してもらうよう注意しましょう。
ステップ3:個人的な夢や目標を確認する
このステップでは、会社の目標との整合性はいったん脇に置いて、部下の個人的な目標を明確にします。会社の目標の枠内で自身の目標を設定しようとすると、どうしても受け身かつその場しのぎの目標になりがちだからです。部下に、本当はどんな仕事に挑戦したいのか、仕事以外で実現したい夢は何か、そしてどんな長期的なキャリアビジョンを持っているかを質問してみてください。長期的な視点で目標を語るタイプ、今何をすべきかを常に考えるタイプなど、部下の特徴が見えてきます。その特徴に合わせて、目標設定をサポートしましょう。
ステップ4:部下の個人目標を設定する
ステップ1~3で、「現在地」「役割」「個人としての目標」が明確になったところで、次は、部下の会社での目標を明確にします。ポイントとしては、会社の目標と個人の夢の重なり合う「共有ゾーン」を見つけることです。この「共有ゾーン」を部下と一緒に探し、見つかったら実現に向けて何ができるか一緒に考える。このステップこそが、「行動イノベーション・トーク」の真髄です。
ステップ5:アクションプラン(10秒アクション)を作る
ステップ1~4までで目標設定ができたら、形骸化しないために、具体的なアクションプランを作成しましょう。人は、本能的に、新しい行動を起こすことよりも現状維持が安全だと判断する傾向があります。いくら部下自身が実現したい目標を設定できたとしても、突然行動を変えることは負担が大きく、「3日坊主」になってしまうことも。ただ一方で、人の脳は「少しずつであれば変化を受け入れる」という性質も持っているので、部下が少しずつ、確実に変わっていけるようにサポートしましょう。
具体的には、目標の実現に近づくための10秒でできる具体的行動を、毎日着実に実行させます。10秒であれば、忙しくても実践することができ、続けるほどに成功体験として蓄積され、次の一歩を踏み出す自信にも繋がるのです。
本コラムでは、指示待ち部下への対処法として、信頼関係の築き方、部下のモチベーションへの向き合い方のポイントをいくつかお話しました。カリスマ性や難しいマネジメントスキルがなくても、誰にでも、正しく部下の背中を押すことができます。さっそく明日から、少しずつでも実践していただければ幸いです。
それぞれのメソッドの詳細や事例、「指示待ち部下」が生まれるもうひとつの原因「スキルの問題」の対処法は、提供している「部下を戦力に育てる技術」研修でお伝えしております。研修導入に関心のある方はお問い合わせください。