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現代の日本企業において、中間管理職の99%がプレイングマネジャーとして、自身の成果と部下の育成という板挟みにあっています。VUCAと呼ばれる予測困難な時代、かつてのような「背中を見て覚えろ」という指導はもはや通用せず、現場のリーダーは『働く時間は短くなるのに仕事は多い』という過酷な状況で疲弊しています。彼らに必要なのは、根性論ではなく、短時間で部下を自走させるための具体的で科学的な『仕組み』です。
本書は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の開業からV字回復までを人財開発の最前線で支えた梅原千草氏が、リーダーが抱える「モヤモヤ」を解消し、部下が自ら考えて動く「自走型チーム」を作るための具体的なスキルを体系化したものです。組織の人材育成の課題をお持ちの企業担当者様は、ぜひ最後までお読みください。
※本記事では「マネジャー(マネージャー)」を同義として扱います。
1. なぜ、今「チーム力」が必要なのか?
1-1. 「チーム」の可能性
現代のビジネス環境において、なぜこれほどまでに「チームの力」が再注目されているのでしょうか。
チームとは、2人以上が集まり、共通の目的を達成するために活動する集団です。一人では達成不可能な高い目標も、共通の目的を持つ「チーム」であれば実現可能になります。
USJのアトラクション運営を例にとると、100名以上のクルー(従業員)が、乗り物の安全確認、ゲストの案内、機械操作といった異なる役割を持ちながら、「ゲストを笑顔にする」という共通の目的のために活動しています。個人の力だけでは年間数百万人のゲストを笑顔にすることはできませんが、チームとして助け合い、相乗効果を発揮することで、無限の可能性が生まれるのです。
1-2. 現代こそ「チーム」の力が必要
昨今、急速なITの発展、顧客ニーズの多様化、転して予期せぬパンデミックなど、私たちを取り巻く環境は大きく変化しました。このように、変動性(Volatility)・不確実性(Uncertainty)・複雑性(Complexity)・曖昧性(Ambiguity)が高い「VUCA時代」では、マネジャーやリーダー一人の経験や既存のノウハウだけでは正解が見つかりません。
多様な経験や価値観を持つメンバーの知識を集結させ、新たな発想を生み出すチーム力こそが、複雑な状況を打開する唯一の武器となります。
1-3. 「自走型」のチームを作るリーダーになるために
理想のチーム像は、リーダーの指示を待って動く集団ではなく、メンバー一人ひとりが自分で自分を動かすことのできる「自走型チーム」です。
メンバーそれぞれが仕事の目的を理解し、チームの状況を把握して「今、何が必要か」を考えて主体的に動くことができれば、組織の結果は飛躍的に向上します。また、「自律的に行動を選択している」という感覚は、メンバー自身の達成感やモチベーション維持にも繋がり、やらされ感による疲弊を防ぐ効果もあります。
リーダーが自走型チームを作るためにまず取り組むべきは、スキルの伝達よりも先に、メンバーの内面にある前向きなエネルギー、すなわち「 心理的資本(HERO) 」を高めることです。
心理的資本とは、以下の4つの要素の頭文字を取ったものです。
- Hope(希望):目的達成に向けた道筋を描く力
- Efficacy(自己効力感):「自分にはできる」という根拠ある自信
- Resilience(回復力):逆境や失敗から立ち直り、適応する力
- Optimism(楽観性):物事のポジティブな面を捉え、できることに目を向ける力
この「自分の中にいる英雄(the HERO within)」を呼び覚ますような関わりをリーダーが持つことで、メンバーは指示を待つことなく、自ら走り出すことができるようになります。次章以降では、この心理的資本を土台とした具体的なチーム作りのステップを見ていきます。
2. チーム作りは、リーダー・メンバーの強みを活かす
2-1.自分を知ることから始める
自走型チームを作るための第一歩は、意外にも「他者のマネジメント」ではなく、「自分自身を知ること(自己認識)」にあります。
USJの元社長グレン・ガンペル氏は、リーダーたちに常に「Who are you?(あなたは誰なのか?)」と問い続けました。これは役職や経歴を答えるものではありません。「自分は何を大切にし、何のためにここにいるのか」という、マネジャーやリーダーとしての「あり方(Being)」を問うものです。自己認識力を高めることは、自分を動かす原動力になります。リーダーが自分を知り、自分を理解し、一人の人間として向き合う姿勢こそが、チーム作りの確かな第一歩となります。
2-2.自走のエンジンとなる「Will・Can・Must」を統合する
自走型リーダーとして持続可能な高いパフォーマンスを発揮するためには、自分の中にある3つの輪(Will・Can・Must)の重なりを見つけることが不可欠です。
Will(やりたいこと) :モチベーションの源泉を探る 自走のエネルギーには「動機」が必要です。「モチベーション曲線図」を用いて、自分の心が動く瞬間を振り返りましょう。経験を深掘りし、「なぜなのか」「だから何が言えるのか」と自分を客観視することで、自分を動かす真の源泉が見えてきます。
Can(できること) :強みが結果を生み出す 「強みに集中しなさい」とは、当時のUSJマーケティング本部長、森岡毅氏の言葉です。自信のないリーダーは、メンバーからの信頼を得られません。まずは自分の強みを書き出してみましょう。その際、以下の5つのポイントを意識してください。
- できて当たり前だと思わない
- 分解して考える
- 好きか嫌いかは関係ない
- 弱みやネガティブな経験も強みになり得る
- 仕事以外でもできていることがあるはず
さらに、メンバーに自分の強みを聞いてみることで、自己認識と他者評価を一致させ、確固たる自信へと繋げます。
Must(すべきこと) :役割を自分事化する 組織からの期待を単なる「義務」と捉えず、自分のWillやCanとどう繋げるかがポイントです。「やりたいこと」と「役割」を重ね合わせること。この重なりが大きければ大きいほど、リーダーは自走のロールモデルとなります。メンバーからの期待を直接聞くことで、「リーダー(マネジャー)とはこうあるべき」という独りよがりの視点から脱却し、真に求められる役割を引き受けることができます。
役割を担うことが、自分のモチベーションとどう繋がるのか。この3つが重なる部分を見つけることが、チームを牽引するリーダーの力強い軸となります。

2-3.メンバーの強みがチームを強くする
リーダー自身の自己認識が深まり、自分の強みと弱みを受け入れられるようになると、自然とメンバー一人ひとりの「違い」に対してもポジティブな関心が向くようになります。 チーム運営における「他者理解」とは、相手を自分と同じ型にはめることではありません。自分と相手の「違い」を認識し、その違いを「チームの強み」としてどう組み合わせるかを考えることです。メンバーそれぞれの異なる「Can」をパズルのように組み合わせ、相乗効果を生み出すことこそが、最強の自走型チームを完成させる鍵となります。
3. ポジティブ感情でチームを前進させる
3-1. 「感情」はコントロールできる
「感情を職場に持ち込むべきではない」という考え方は、自走型チームにおいては過去のものです。むしろ、感情を適切にマネジメントし、活用することがリーダーの重要なスキルとなります。
リーダーも人間ですから、予期せぬトラブルや未達の数字に、イライラや不安を感じるのは自然なことです。しかし、「感情は、思考の癖(捉え方)によって選択できる」という事実を知る必要があります。
湧き上がったネガティブな感情をそのままチームにぶつけるのではなく、「思考」を働かせて冷静になり、他者に見える「行為」をコントロールすることがと自分に問いかける技術が求められます。
自分の感情の切り替え方法、ネガティブ感情を手放す方法の1つに「ストレスコーピングリスト」があります。ストレス発散法や、やる気が出ないときの切り替え法をリスト化し、自覚することで場面などに合わせて活用できます。「深呼吸をする」「焼肉を食べる」「好きな音楽を聴く」など多くの選択肢を持ち、ストレスを手放す習慣にすることで、安定的にいい状態を作り出すことができます。
3-2. 仕事の価値を決めるのは自分
USJのアルバイト採用担当時、職種紹介に工夫をしていました。例えば、「飲食店で食器や調理器具を洗浄する仕事」と捉えるか、「料理を通じてハッピーを届けるお仕事」と捉えるかで、仕事への取り組み方がポジティブなものへと変化するからです。自分たちの仕事の価値を認識することで、仕事に対するワクワク感が醸成され、目的に向かって自走する原動力になります。
リーダーの役割は、仕事の意味をポジティブに定義し直す(リフレーミングする)姿を見せることです。その前向きな姿勢こそが、チーム全体にポジティブな感情を伝播させます。
3-3. (自分とメンバー)の承認欲求を満たす
「人の欲求は5段階に分類できる」というマズローの欲求段階説があります。
その中でも4段階目の承認欲求は、認められたい、評価されたいという欲求です。
上司から褒められたり、チームメンバーから頼られたりすると、認められたという満足感が得られ、さらに高みを目指していくポジティブな向上心が生まれます。
メンバーの承認欲求を満たすためには、まずリーダーが自分で自分を認め、自己肯定感を高めることが求められます。ポジティブな状態が生まれれば、自身を持ってメンバーと接することができるからです。
すぐに始められる効果的な方法としては以下の3つがあります。
- 「今日よかったこと3つ」を日記につける
- ネガティブな出来事の「よかった点」を探す
- 「やること付箋」を剥がして捨てる
リーダーが自信を持ち、ポジティブな向上心が生まれている状態で、仕事やメンバーと接することが大事なのです。自分の承認欲求を満たす方法としてこの3つを使ってみてください。
4. チームの強固な土台は人間関係で作られる
4-1. 人間関係が与える影響
「誰に言われるか」が指示の浸透度を左右します。「組織の成功循環モデル」では、関係の質を高めることが、思考、行動、そして結果の質を向上させる起点となります。

職場内で異なる意見を言っても、評価が下がったり、人間関係が悪化したりすることはない、という安心・安全のもと、自由闊達にコミュニケーションを取り、相互理解・相互作用を生むのが 心理的安全性 です。
心理的安全性が低い職場では、以下の「4つの不安」が蔓延し、生産性を著しく低下させます。
- 無知と思われる不安
- 無能と思われる不安
- 邪魔だと思われる不安
- ネガティブだと思われる不安
心理的安全性のあるチームというのは、このような不安を抱く必要はなく、安心して、発言や行動ができるチームのことです。積極的な個々の言動が、チームの活性化に繋がります。
4-2.心理的安全性を高めるリーダーの行動6選(WESTIE)
心理的安全性を育むのは、リーダーの「日々の些細な行動」の積み重ねです。
現場のマネジャーが明日から即実践できる指針として、6つの頭文字をとった「WESTIE(ウェスティ)」を提唱しています。
- W(We:私たち):主語を「私たち」にしてチームの問題として捉える。
- E(Eye:目):ながら対応をせず、目を見て対話する。
- S(Self-Disclosure:自己開示):リーダー自身の失敗や弱さを開示する。
- T(Together:一緒に):同じ時間を共有し、共に達成感を味わう。
- I(Interest:関心):メンバーに関心を持ち、関心があることを表現する。
- E(Energy:エネルギー):挨拶や朝礼でポジティブなエネルギーを発信する。
リーダーが言動を工夫することで、チーム内の心理的安全性が高まり、関係の質が改善され、チーム力が発揮されます。
5. コミュニケーションの工夫がチームを強くする
5-1.対話の質を高める
リーダーが自分の感情をコントロールし、「なぜ(過去・否定)」ではなく「何が(未来・解決)」を問うことで、対話の質は劇的に向上します。伝えることや聴くことは正解がなく、とても複雑で難しいものです。リーダーができることは、メンバーとの関係構築を行い、一人ひとりに合った対話ができるようコミュニケーションスキルの引き出しを増やすことです。
5-2.効果的な会議の作り方
自走型チームの会議は、新しいアイデアや解決策が生まれる場所でなければなりません。 特に大切にしてほしいのが、ブレインストーミングの時間には自由に発言してもらうことです。どんなに小さな意見も歓迎される雰囲気が、メンバーの創造性を刺激します。自由闊達な発言ができる場を経験すると、チームにいい影響をもたらします。リーダーや他のメンバーとのコミュニケーションが取りやすくなり、会議以外でも情報交換や意見交換がしやすくなるのです。
5-3.1on1(面談)で成長をサポート
1on1は、単なる進捗確認の場ではありません。メンバーが自身の「Will・Can・Must」を見つめ直し、自分の中にいる「HERO(心理的資本)」を呼び覚ますための貴重な時間です。 リーダー(管理職)は、答えを教えるのではなく、「どうすればもっと良くなると思う?」「次はどんなことに挑戦したい?」という問いかけに徹してください。メンバーが自ら考え、自分の口で答えを見つけた瞬間、彼らの自走のスイッチが力強く入ります。
6. 学ぶ個人、学ぶチームへ
6-1. 成長に必要な「学ぶ場」を提供する
人はどのような時に最も成長するのでしょうか。人材育成には「70:20:10の法則」というものがあります。成長の7割は「日々の仕事経験」から、2割は「他者からの助言(上司や同僚)」から、そして残りの1割が「研修や読書」から得られるという考え方です。 リーダーや管理職の役割は、単に知識を授けることではなく、現場の仕事そのものを「学びの機会」に変える環境をデザインすることです。メンバーが「もっと知りたい」「やってみたい」という知的好奇心を持ち続けられるよう、適切な難易度の仕事を任せ、挑戦を促すことが自走への近道となります。
6-2. 他者との関わりが自走を促進する
リーダーは、同じ目線で話せる相手、自分に駄目出しをしてくれる相手はなかなかおらず、孤独になりがちです。積極的に周囲との関わりを持ち、他者の力を借りてください。
他者と関わる機会を持つことによって、その対話の中で気づきが増えることが大事なのです。
リーダー自身が周囲と積極的に関わり、他者からの助言やサポートを糧にする姿を見せること。それが結果として、メンバーにも同様の行動を促すことにつながります。
6-3. 「経験」を「資産」に変えるサイクル
「やりっぱなし」の経験は、学びにはなりません。大切なのは、経験した後に必ず「振り返り」を行うことです。 「今回のプロジェクトで、うまくいった要因は何だったか?」「次はどうすればもっと良くなるか?」という問いを習慣化してください。たとえ失敗したとしても、それをチームの共通の学び(資産)として捉え直すことができれば、それは次に繋がる価値ある経験へと変わります。 失敗を恐れずに挑戦し、そこから得た気づきを即座に行動に反映させる。 このサイクルを高速で回せるチームこそが、VUCA時代において最強の自走型チームとなるのです。
7. 組織変革はリーダーの「引き出し」から始まる
最強の自走型チームを作るために必要なのは、リーダーがこれまでの経験や自分を否定することではありません。あらゆる場面、あらゆる部下に対応できる「スキルという名の引き出し」を増やすことです。
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