研修を「やって終わり」にしない!事業KPIにつなげる部門別研修の設計方法

研修を「やって終わり」にしない!事業KPIにつなげる部門別研修の設計方法

目次

人的資本経営への注目が高まり、人材育成への投資やその成果を可視化することが求められる中、多くの企業では社員研修や人材育成施策の充実が進んでいます。
2026年8月20日に開催した本セミナーでは、事業部門ごとの課題やKPIに紐づけて人材育成を考える「部門別研修」に着目し、従来の人事主導型研修との違いや、事業成果につなげるための研修設計、人事・HRBPが果たすべき役割について解説しました。本レポートでは、その一部をご紹介します。

なぜ今、事業成果につながる研修が求められているのか

企業を取り巻く環境が大きく変化する中、人材育成のあり方も変わりつつあります。従来のように研修機会を提供するだけではなく、経営戦略や事業課題と人材育成を結びつけ、現場の行動変容や事業成果につなげていくことが重要になっています。その背景には3つの観点が挙げられます。

VUCA・BANI時代に求められる、環境変化に対応した人材育成

企業を取り巻く環境は、急速に変化しています。変動性・不確実性・複雑性・曖昧性を表す「VUCA」に加え、近年では、脆弱性・不安・非線形・不可解性を表す「BANI」という考え方も注目されています。将来を予測することが難しいだけでなく、小さな変化が想定以上に大きな影響を及ぼすなど、企業には柔軟な対応が求められています。

こうした環境では、事業部門が直面する課題も常に変化します。全社一律の人材育成施策を年次の固定サイクルで展開するだけでは、急速に変化する事業課題に対応しきれない場合があります。
その時々の事業課題に応じて「今、現場に必要なスキルは何か」を捉え、人材育成へ柔軟に反映していくことが重要です。

人的資本経営で求められる「経営戦略と人材戦略の連動」

人的資本経営への注目が高まる中、人材育成は単なるコストではなく、企業の持続的な成長に向けた「投資」として捉えることが求められています。

人的資本経営では、「経営戦略と人材戦略の連動」が重視されています。教育の投資対効果(ROI)を高めるためにも、研修を単独の施策として考えるのではなく、事業目標や戦略と結びつけ、「何のために、どのような人材を育成するのか」を明確にすることが重要になります。
「どの研修を実施するか」から考えるのではなく、事業戦略や事業目標から逆算して必要な人材やスキルを考え、教育投資を事業成果へとつなげていく視点が求められています。

「管理型人事」から「戦略型人事・HRBP」へ、人事部門の役割も変化

事業環境や人材育成に対する考え方の変化に伴い、人事部門に求められる役割も変わりつつあります。
従来のように全社一律の施策を人事主導・年次の固定サイクルで展開する「管理型人事」から、事業部門と共創しながら、各部門の課題に応じた人材育成を設計・改善する「戦略型人事・HRBP」への進化が求められています。

一方、事業部門のビジネスパートナー(BP)として機能している人事は約3割にとどまっているという調査結果もあります。研修を提供するだけでなく、事業部門の課題を理解し、現場とともに人材育成を設計・改善する「事業課題の解決者」としての役割が、これからの人事部門には重要になっているのです。

なぜ従来の人事主導型研修だけでは事業成果につながりにくいのか

階層別研修やリーダーシップ研修、コミュニケーション研修など、人事部門が主導する全社共通の研修は、社員の基礎力向上や共通言語の形成、組織内の関係性強化などに重要な役割を果たします。
一方で、事業成果への貢献という観点では、人事主導型研修だけではカバーしきれない領域があります。

全社共通の汎用テーマでは、部門固有の課題までカバーできない

人事主導型研修では、リーダーシップやコミュニケーション、問題解決など、業種や職種を問わず必要とされる汎用的なテーマが中心になりやすい傾向があります。こうした研修は、社員全体のスキルの底上げには有効です。
しかし、実際に現場が抱えている課題は部門によって異なります。たとえば営業部門では受注率や客単価の向上、製造部門では不良率の低減や生産性向上、研究開発部門ではアイデア創出や研究者のマネジメントなど、それぞれ異なる課題があります。
そのため、全社に共通して必要な「汎用的スキル」に加えて、各部門の成果を左右する「専門的スキル」をどう強化するかという視点が必要です。

研修と現場実践が分断されている

研修で新しい知識やスキルを身につけても、それが実際の仕事で使われなければ、現場の変化にはつながりません。
人事主導型研修では、集合研修などによる知識・スキルのインプットが中心となり、研修後に実践する機会や、実践した結果に対するフィードバック・伴走が不足しやすいという課題があります。
研修で「わかった」状態と、実際の仕事で「できる」状態にはギャップがあります。研修効果を現場での行動変容につなげるには、知識をインプットして終わるのではなく、研修と現場を行き来しながら、実践・振り返り・フィードバックを繰り返す学習設計が重要になります。

研修と事業KPIが連動していない

もう一つの課題が、研修の目的と事業KPIが連動していない点です。
従来の人事主導型研修では、受講満足度やアンケート、レポートなどを研修効果の指標とすることが一般的です。一方、事業部門が追っているのは、営業部門なら受注率、製造部門なら不良率、研究開発部門ならアイデア数といった事業KPIです。
研修とこうした事業KPIが結びついていなければ、「研修によって何が変わったのか」「教育投資がどの程度事業成果に貢献したのか」を捉えることは難しくなります。
人材育成を事業成長につなげるためには、研修を企画する段階から、「どの事業課題を解決するのか」「どのKPIの改善を目指すのか」まで明確にしたうえで、必要なスキルや学習内容を逆算して設計することが重要です。


そこで注目したいのが、全社共通の人材育成を補完しながら、各部門の事業課題やKPIを起点に教育を設計する「部門別研修」です。

事業課題から人材育成を考える「部門別研修」とは

ここまで見てきたように、全社共通の人事主導型研修には重要な役割がある一方、部門固有の課題や事業KPIへの対応には限界があります。そこでご紹介するのが、「部門別研修」というアプローチです。

部門別研修とは、営業・製造・研究開発・管理などの各事業部門が直面している固有の事業課題の解決や、戦略実行・事業目標の達成に必要なスキルに焦点を当てた、現場起点の教育アプローチです。教育体系上では目的別研修の一つに位置づけられます。
従来の人事主導型研修が、リーダーシップやコミュニケーション、ロジカルシンキングなど、組織全体に必要な「汎用的スキル」の強化を主眼とするのに対し、部門別研修では、各部門の課題解決に必要な「専門的スキル」の強化に重点を置きます。
両者はどちらか一方を選ぶものではありません。全社共通の研修で組織全体の基礎力を高めながら、部門別研修によって事業成果に直結する専門的なスキルを強化するという、補完的な関係で捉えることが重要です。

部門によって、必要な研修テーマは異なる

部門別研修では、「どのような研修を実施するか」から考えるのではなく、各部門が抱えている事業課題から必要なスキルを考えていきます。
たとえば営業部門で「案件創出・受注率向上・客単価最大化」が課題であれば、ターゲット顧客の設定や質問力、ソリューション提案技法などが研修テーマの候補になります。
製造部門で「不良の要因特定と恒久的対策」「総合設備効率の最大化」が課題なら、品質追求のマインドセットや生産性向上、業務のムダを減らすリーンの考え方や、自動化・AI活用などが必要になるでしょう。
研究開発部門では、研究者のモチベーション向上やマネジメントへの意識変革、知的生産といった課題に対して、アイデア発想力やマネジメント力、知財管理などのテーマが考えられます。

このように、同じ企業の社員であっても、所属する部門や担う役割によって、事業成果を上げるために必要なスキルは異なります。「全社員に何を学ばせるか」だけでなく、「この部門の課題を解決するために、どのようなスキルが必要か」という視点から研修を設計することが、部門別研修の大きな特徴です。

部門別研修の3つのメリット

部門別研修によって人事主導型研修だけでは届きにくかった領域にアプローチできるとして、主に3つのメリットを紹介します。

1.現場の「不」を解消するテーマを設定できる

全社共通の汎用テーマではなく、現場の社員が抱えている「不安」「不満」「不足」などに寄り添い、実際の業務課題をテーマに研修を設計できます。自分たちの仕事に直結する内容だからこそ、研修で学んだことを現場で実践するハードルも下げやすくなります。

2.研修を事業KPIに直結させやすい

部門ごとの重要なKPIと研修を連動させることで、研修の目的が明確になります。たとえば営業部門なら案件起案率や平均受注単価、製造部門なら不良率や設備効率など、具体的な指標と結びつけて教育を設計することで、研修による事業へのインパクトや投資対効果も捉えやすくなります。

3.教育エンゲージメントを高められる

実務上の課題をテーマにすることで、受講者が研修を「自分たちのための教育」と認識しやすくなります。その結果、研修への没入感や学習意欲を高めるだけでなく、参加者同士が学び合う組織風土の形成にもつながります。
部門別研修の目的は、単に専門的な研修メニューを増やすことではありません。事業課題を起点に、必要なスキルと学習機会を設計し、その成果を現場や事業KPIの変化につなげていくことにあります。
では、実際に部門別研修を事業成果につなげるためには、どのような手順で設計すればよいのでしょうか。次章では、「部門別研修の設計6ステップ」を解説します。

部門別研修を事業成果につなげる6つの設計ステップ

部門別研修は、単に部門ごとに異なる研修を実施すればよいわけではありません。重要なのは、事業戦略やKPIから逆算して現場の課題を特定し、必要なスキルと学習機会を設計したうえで、その成果まで検証することです。
ここでは、部門別研修を企画・実行するプロセスを、次の6つのステップに整理しました。

STEP1 事業戦略・KPIを明確にする

最初に行うのは、研修テーマを決めることではありません。経営層や事業部門長との対話を通じて、その部門が解決すべき事業課題と、達成すべき重点KPIを明確にすることから始めます。
たとえば営業部門であれば、案件創出や受注率向上、客単価最大化などが事業課題として考えられます。製造部門であれば、不良率の低減や総合設備効率の向上などが挙げられます。
「どの研修を実施するか」から考えるのではなく、まず「事業として何を実現したいのか」を起点にすることがポイントです。

STEP2 現場の課題を特定する

次に、目標と現状との間にどのようなギャップがあるのかを分析します。
現場へのヒアリングや業務プロセスの確認などを通じて、事業KPIの達成を妨げている要因を探り、研修によってアプローチすべき課題を特定します。
このとき重要なのは、表面的な要望をそのまま研修テーマにしないことです。たとえば「営業力を高めたい」という要望があったとしても、実際の課題が新規案件の不足なのか、商談の進め方なのか、提案内容なのかによって、必要な教育は変わってきます。

STEP3 課題解決に必要なスキルを定義する

課題を特定したら、その解決に必要となる職務固有のスキルや行動特性を明確にします。
たとえば営業部門であれば、ターゲット顧客の設定、雑談力・質問力、ソリューション提案技法などが考えられます。製造部門であれば、品質向上に向けたマインドセットや、リーンの考え方、自動化・AI活用、生産性向上のノウハウなどが挙げられます。
必要なスキルを明確にすることで、事業課題と研修内容のつながりが見えやすくなります。

STEP4 現場実践を中心に学習を設計する

必要なスキルが明確になったら、どのように身につけてもらうかを設計します。
設計の法則として、「70-20-10の法則」があります。これは現場での実践機会を70%、成果共有やフィードバックを20%、知識・ノウハウのインプットを10%とする学習設計です。
ここで重要なのは、研修を知識のインプットだけで完結させないことです。学んだ内容を実際の仕事で試し、その結果を振り返り、フィードバックを受けるところまで学習プロセスに組み込みます。

その具体的なアプローチの一つが、PBL(Project-Based Learning)です。
PBLでは、企業が実際に抱えている経営課題や現場課題を題材に、参加者がプロジェクトチームを組み、解決策の立案から実行まで取り組みます。「研修で学んでから仕事で使う」のではなく、課題解決に取り組むプロセスそのものを学習機会にすることが特徴です。

講師も一方的に知識を教えるだけではなく、コーチやコンサルタントとして参加者の課題解決を伴走支援します。これにより、実際の課題解決と知識・スキルの獲得、さらには組織力の強化を同時に目指します。

STEP5 現場での実行・伴走を支援する

研修を実施した後は、実際の業務で学びを活用できるよう、継続的に支援します。
実践から生まれた成功パターンをナレッジとして蓄積・共有することで、個人の学びを組織の学びへと広げていきます。
研修を一度きりのイベントにせず、「学ぶ→実践する→振り返る→再び実践する」サイクルをつくることが、現場での行動変容につながります。

STEP6 事業KPIで効果を測定し、改善する

最後に、研修によってどのような変化が生まれたのかを検証します。
受講後のアンケートなどによる評価に加えて、業績や各種KPIにどのようなインパクトがあったのかを確認します。たとえば営業部門なら案件起案率や商談サイクル、平均受注単価、製造部門なら不良率や停止時間、総合設備効率などが効果測定の指標として考えられます。
そして、効果測定の結果を次の研修設計に反映し、改善を繰り返していきます。研修を「実施して終わり」にするのではなく、事業KPIとのつながりを確認しながら改善を続けることが、教育投資を事業成果につなげるポイントです。

この6つのステップを実践するためには、事業部門だけに研修の企画・運営を任せるのではなく、人材開発の専門性を持つ人事・HRBPが関与することも重要です。

まとめ|研修を「受講機会」から「事業成長への投資」へ

企業における教育・研修の目的は、社員に学ぶ機会を提供することだけではありません。その先にある、現場の課題解決や事業成長につなげていくことが重要です。
全社共通の人事主導型研修は、社員の基礎力向上や共通言語の形成などに欠かせません。一方で、事業環境が急速に変化し、部門ごとに異なる課題への対応が求められる現在は、それだけではカバーしきれない領域もあります。
そこで重要になるのが、事業課題やKPIを起点に、現場に必要なスキルを明確にして学習を設計する「部門別研修」です。研修と現場実践を行き来しながら、成果を事業KPIで検証・改善していくことで、人材育成を「受講機会の提供」から「事業成長への投資」へと転換できます。

また、部門別研修は、部門責任者に任せきりにしないことも重要です。 人事・HRBPが事業部門と連携することで、場当たり的な研修を防ぎ、適切な外部リソースの選定、部門独自のバイアスの抑制、社内ナレッジの活用、全社的な人事戦略との整合を図ることができます。
事業部門が持つ「現場・事業への理解」と、人事・HRBPが持つ「人材育成の専門性」を掛け合わせ、双方が共創しながら研修を設計・改善していくことが、部門別研修を事業成果につなげるポイントです。

「どの部門から部門別研修を始めればよいかわからない」「事業課題を研修にどう落とし込めばよいか悩んでいる」「研修を事業KPIにつなげたい」といった課題をお持ちの方は、ぜひかんき出版へご相談ください。

参加者の声

  • 部門ごとに求める人物像を明確にすることが重要だと気づいた。
  • 事業部主体だからこそできる人材育成や風土醸成の可能性を感じた。
  • 事業部内で行っていた伴走型の育成施策と、今回紹介された考え方に共通点を感じた。

お問い合わせ

ご相談は、下記フォームからお気軽にどうぞ。


お問い合わせはこちら

研修・講演の導入、書籍購入などお気軽にお問い合わせください。

edu.kanki-pub.co.jp

og_img

■ 関連資料ダウンロード


研修計画の立て方5ステップ

社員研修を企画・実施するうえで、課題の細分化・明確化で効果測定も可能になるポイントがわかります。 社内外の環境変化を捉え、いま自社に必要な教育体系を棚卸し・整理できます。

edu.kanki-pub.co.jp

og_img

■おすすめの部門別研修プログラム

営業部門に人気の研修


妥協ではなく双方の“納得”利害に着目する「交渉術研修」

利害に着目し、「妥協」ではなく双方の「納得」を得るネゴシエーション力を得ることができる「原則立脚型交渉術」をベースにした交渉術研修です。

edu.kanki-pub.co.jp

og_img

製造部門に人気の研修


信頼獲得を軸に、業務改善とコミュニケーションを見直す「業務改善力向上研修」

ECRSやOARRなどのフレームワークを活用し、業務改善とコミュニケーションを一体で見直しながら、信頼獲得につながる仕事の進め方と周囲を巻き込む実践力を養います。

edu.kanki-pub.co.jp

og_img

開発部門に人気の研修


行動から発想を生み、変化を実現する「実践型イノベーション研修 」

VUCA時代に求められる探索的なイノベーションを推進できる人材を育成する研修です。多様なメンバーとの共創やアジャイル型の進行方法を学び、課題解決力と共創力を強化します。

edu.kanki-pub.co.jp

og_img

関連記事