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2026年6月16日、「スキル・ナレッジの属人化を防ぐ3つのポイント~「暗黙知」を言語化するために人事ができることとは~【現場実装編】」オンラインセミナーを開催しました。
本セミナーは、日本の人事部「HRカンファレンス 2026-春-」でお話しした「なぜ今、暗黙知の言語化が必要なのか」というテーマを受け、その次のステップとして開催したアフターセミナーです。
HRカンファレンスの講演では、人的資本経営や知的資本経営の観点から、ベテラン社員が持つ経験やノウハウを組織の資産として蓄積・継承していく重要性についてお伝えしました。
本セミナーでは、人事担当者が中心となって人材・組織のナレッジやスキルを組織知として言語化し、現場へ定着させるための具体的な進め方について解説しました。当日の講演でお伝えした内容の一部をご報告いたします。
「HRカンファレンス 2026-春-」のレポートはこちら
https://edu.kanki-pub.co.jp/column/hrconference202605
本セミナーでお伝えした3つの実践ステップ
前回のHRカンファレンスでは、暗黙知の言語化の必要性についてお伝えしました。一方で、実際に取り組みを始めようとすると、
- どの業務から着手すべきか
- 何を言語化すればよいのか
- どのように現場へ定着させればよいのか
といった具体的な課題に直面します。
そこで本セミナーでは、「優先順位の決め方」「言語化の範囲と設計」「現場実装の仕組み」の3つのステップに沿って、人事担当者が中心となってスキル・ナレッジの属人化を防ぐための実践ポイントを解説しました。
Step 1|優先順位の決め方
暗黙知の言語化は「どこから始めるか」が成否を分ける
暗黙知の言語化に取り組む際、多くの企業が最初に悩むのが「どこから着手すべきか」という点です。
属人化の課題は組織のあらゆる場所に存在するため、すべてを対象にしようとするとプロジェクトが大きくなりすぎ、かえって前に進まなくなってしまいます。
暗黙知の言語化を成功させるためには、まず対象領域を絞り込み、小さく始めることが重要です。
特に人事部門が主導する場合は、現場の協力が得やすく、成果が見える化しやすいテーマから着手することで、暗黙知を言語化するメリットを早い段階で体感できるため、組織内で成功体験が共有され、暗黙知を言語化する気運が高まります。
まず対象業務を絞り込む ― スモールスタートの重要性
では、どの業務から取り組めばよいのでしょうか。
優先順位を決める際の判断軸として、業務インパクト、属人化リスク、ナレッジ流出リスク、育成難易度、ヒューマンエラー・品質差、現場協力の得やすさといった観点があります。
例えば、ベテラン社員しか対応できない業務や、担当者によって品質に差が生じやすい業務は、暗黙知の言語化による効果が表れやすい領域です。また、異動や退職によってノウハウ流出のリスクが高い業務も優先的に検討すべき対象といえます。
トップダウンで、最初から全社展開を目指すケースもあると思いますが、できれば、まずは一つの部門や業務テーマに的を絞り、アジャイルに実践しながら、即成果を確認できることが、主体的かつ継続的な取り組みにつながります。

このステップを終えた状態とは
Step1のゴールは、「最初にどこから暗黙知の言語化を始めるか」を説明できる状態になることです。
具体的には、
- 対象業務や対象部門を仮設定できている
- 着手する理由を整理できている
- 協力を依頼する現場担当者をイメージできている
といった状態を目指します。
人事部門だけで決めるのではなく、現場や経営層とも対話しながら対象領域を選定することで、その後の展開もスムーズになります。
着手時に避けるべきパターン
暗黙知の言語化に取り組む企業が陥りやすいパターンも紹介されました。
一つ目は、最初から全社一斉に進めようとするというパターンです。対象範囲が広がりすぎると調整コストが増え、プロジェクトが停滞しやすくなります。
二つ目は、完璧な準備が整うまで、なかなか着手しないパターンです。暗黙知の言語化は一度作って終わりではなく、運用しながらどんどん改善が進化します。まずは、完璧を目指さず取り組むことが重要です。
三つ目は、システムやツールの導入を先行させてしまうことです。ナレッジ管理システムや生成AIは有効な手段ですが、これらの導入が目的化してしまうと上手く機能しません。まずは、システムや生成AIに入れやすい状態にすることが大切です。共有すべき知識や判断基準が整理されていなければ、どんなに優れたツールでも十分な効果を発揮できません。
そのため、「器の前に中身を整える」という考え方で、まずは現場に存在する暗黙知を言語化し、知識をどのような形で組織資産として共有・蓄積するかを明確にすることが、成功への第一歩です。
Step 2|言語化の範囲と設計
何を言語化すべきなのか
Step1で対象業務を決定したら、次に考えるべきなのが「何を言語化するか」です。
暗黙知の言語化というと、マニュアルや業務手順書の整備をイメージしがちですが、それだけでは属人化の解消にはつながりません。
現場で成果を生み出しているベテラン社員やハイパフォーマーは、同じ手順で仕事をしていても、状況に応じて異なる判断を行っています。業務品質や成果の差を生み出しているのは、作業そのものではなく、その背景にある思考や判断基準です。
そのため、暗黙知の言語化では、業務フローや作業内容だけでなく、「どのような場面で」「何を基準に」「なぜその判断をしたのか」を整理することが重要になります。
まず、判断が難しい場面や、担当者によって品質差が生じやすい業務から着手することで、効率的に成果へつなげることができます。
作業ではなく「判断」を可視化する
ここでは、「作業ではなく判断を言語化すること」が重要なポイントとして紹介されました。
例えば採用面接であれば、「面接後24時間以内に評価シートを提出する」という手順は誰でも共有できます。しかし実際には、
- 評価が拮抗した際に何を優先して判断するのか
- どのような兆候が見えたら採用を見送るのか
- 将来性をどのような観点で評価するのか
といった判断基準にこそ、経験豊富な担当者のノウハウが存在します。
労務対応や人事評価、営業活動、顧客対応なども同様です。
単なる作業手順だけでは再現できない「なぜそう判断したのか」を可視化することで、組織全体で共有できる知識へと変えていくことができます。
属人化を防ぐためには、作業の標準化だけでなく、判断の標準化が欠かせないのです。
暗黙知を形式知へ変える設計のポイント
KW(Knowledge & Wisdom)リストとは?
こうした判断基準を整理する手法として紹介されたのが、「KW(Knowledge & Wisdom)リスト」です。
KWリストは、熟練者の頭の中にある知識や経験、判断のポイントを構造的に整理するためのフレームワークです。
従来の手順書が「何をするか」を整理するものであるのに対し、KWリストは「なぜそうするのか」「どのように判断するのか」を整理することを目的としています。ポイントはナレッジ(判断)を加えることです。
また、KWリストはマニュアルやチェックリストへの展開だけでなく、生成AIを活用した今後の知識基盤構築にもつながります。
言語化した判断基準は、そのまま蓄積するのではなく、他者が再利用できる単位へ整理することも重要です。複雑な思考や業務プロセスをモジュール化(=分解)し、再利用可能な知識として設計する考え方がポイントとなります。

思考・判断と手順を混同しないための整理
暗黙知の言語化では、「手順」と「判断」を切り分けて考えることが重要です。
手順は比較的整理しやすい一方で、成果の差を生み出している判断基準は見落とされがちです。
だからこそ、
- どの場面で判断が分かれるのか
- 優先順位をどう決めるのか
- 品質を担保するために何を確認しているのか
といった観点から整理する必要があります。
こうした判断の可視化によって、経験豊富な社員だけが持っていた知識を組織全体で共有できるようになります。
人事が設計に関与すべき理由
暗黙知の言語化は現場主導で進めることも重要ですが、人事部門の関与も欠かせません。
現場だけで進めると、部門ごとに整理方法や粒度がばらつき、全社的な活用が難しくなるケースがあります。
人事部門が関与することで、
- 言語化の目的を統一する
- 共通フォーマットを整備する
- 知識やスキルと紐づける
- 人材育成や評価制度と連携させる
といった全体設計が可能になります。
暗黙知の言語化は単なるナレッジ整理ではなく、人材育成や組織開発、ひいては人的資本経営や人的資本開示にもつながる重要な取り組みです。そのため、人事が推進役となり、現場と連携しながら進めることが成功の鍵になります。
Step 3|現場実装の止まらない仕組み
回避すべき状況は、「作って終わり」「結局OJTに戻る」こと
Step1で対象業務を決め、Step2で暗黙知の言語化を進めても、それだけで属人化が解消されるわけではありません。
多くの企業では、せっかくマニュアルやナレッジを整備しても、現場で活用されないまま更新が止まり、気がつけば以前と同じようにOJT頼みの状態へ戻ってしまいます。
暗黙知の言語化において最も重要なのは「作ること」ではなく、「使われ続けること」です。つまり、言語化した知識を現場で活用し、継続的に更新しながら組織の資産として育てていく仕組みづくりこそが、現場実装のポイントであり、本質だといえます。
継続的なナレッジ共有を促進する仕組み
では、どのようにすればナレッジ共有を継続できるのでしょうか。
ナレッジ共有の継続のためには組織として運用ルールや場を設計し、共有活動そのものを業務の一部として組み込む必要があります。
そのためには、知識を集めるだけでなく、
- 定期的に共有する場がある
- 更新履歴が残る
- 日常業務の中で活用される
という状態を作ることが重要です。
人事部門は、こうした仕組みを設計し、現場が継続的に活用できる環境を整える役割を担います。
暗黙知の言語化は、このように一旦仕組み化されれば、人事部門の手を離れ、現場で自走・継続・発展していき、企業にとって最も重要な無形資産を共有・蓄積し、人と組織を継続して育成できる取組みなのです。
AI活用時代を見据えた知識基盤づくり
近年は生成AIを活用したナレッジマネジメントへの関心も高まっています。しかし、AIを導入するだけで組織知が活用されるわけではありません。
重要なのは、AIが参照できる形で判断基準やノウハウが整理されていることです。
KW(Knowledge & Wisdom)リストの考え方は、単なるナレッジ整理ではなく、人間が中心となってAIを育てる“Human in the Loop”というアプローチそのものであり、自社独自のエージェントAIや知識基盤を構築するためのアプローチとして活用できます。
暗黙知の言語化は単なる属人化対策ではなく、組織の知識基盤を構築する取り組みといえるでしょう。
人事が設計すべき3つの具体策
現場実装を継続させるために、人事部門が設計すべきポイントとして「会議体」「ログ」「導線」の3つの具体策があります。
① 会議体(ナレッジミーティング)
まず必要なのは、ナレッジを共有するための定期的な場です。
業務改善事例や成功・失敗事例、現場で得られた新たな知見を持ち寄り、共有する機会を設けることで、個人の経験が組織全体の学びへと変わります。
ナレッジミーティングは、単なる報告会議ではなく、人と組織を育て、暗黙知を継続的に発見し、更新するための起点となります。
② ログ(差分+進化の記録)
次に重要なのが、ナレッジの更新履歴を残すことです。
業務環境は常に変化しているため、ナレッジも進化していきます。何を追加したのか、どのような改善が行われたのかを記録することで、組織の知識資産を継続的に成長させることができます。
また、更新履歴を残すことで、改善のプロセスそのものも組織の学びとして蓄積されると同時に、(更新しなければ正しく育っていかない)生成AIの学習データとして活用できます。
③ 導線(使われる仕掛け)
最後に重要なのが、ナレッジを日常業務で活用するための導線設計です。
共有された知識が業務プロセスと切り離されていると、現場では活用されなくなってしまいます。
だからこそ、人材育成や評価制度、研修、OJTなど、既存の仕組みと接続して活用の場面を設計する必要があります。ナレッジを「見るもの」ではなく、「使うもの」「業務の品質向上・人材育成や組織開発に役立つもの」に変えることが、定着のポイントになります。
この3つの概念は、「誰が・どこで・どの頻度で」まで設計することで、効果的に機能します。
また、ナレッジ活用を一過性の取り組みにしないためには、評価制度や育成制度との連動も重要です。人事が「型」「運用」「評価」「導線」を一体で設計することで、現場実装は継続的な仕組みとして機能します。

さまざまな企業の成功事例から学ぶ
製造業・サービス業・管理部門など、さまざまな組織で取り組まれた事例が紹介され、業種や対象業務は異なるものの、成果をあげている企業には、共通する考え方や進め方が見られました。 特に重要なのは、「小さく始める」「判断基準を言語化する」「人事が主体的に設計に関与する」の3点です。
成功のポイントとして、人事部門が事業部門の課題をヒアリングし、その解決策として「暗黙知の言語化」や「KWリストの作成」を提案し、その提案を事業部門がコミットした状態で着手するという流れが紹介されました。また、テーマ別研修や、ダイバーシティ研修等から着手し、徐々に組織全体に浸透・拡大していった事例も紹介され、いずれも、小さく始めて大きな成果に繋がっていました。
また、単なる手順ではなく、ベテラン社員が持つ判断基準や着眼点を可視化したことで、品質の安定化や育成期間の短縮という成果があがっています。さらに、人事が運用設計や既存制度との接続を主導したことが、継続的な活用を支える重要な要因となっていました。
事例をフルに活用するためのチェックリスト
他社事例を参考にする際は、「参考になった」で終わらせず、自社の取り組みにどう落とし込むかを考えることが重要です。事例を活用するための視点として、①着手先の特定、②言語化の設計、③運用設計、の3つのステップが示されました。
例えば、退職や異動によるリスクが高い業務を特定する、判断が分かれる場面を洗い出す、既存の会議や研修制度と連携させるなど、具体的な検討項目を整理することで、自社に適した実行計画を描きやすくなります。事例は模倣するためではなく、自社の課題解決に向けたヒントとして活用することが成功への近道といえるでしょう。
まずは「自社で最も属人化リスクが高い業務は何か」を考えるところから始めてみるとよいでしょう。
まとめ|暗黙知の活用は「言語化」ではなく「組織実装」がゴール
暗黙知の言語化は、大規模な導入や制度改革から始める必要はありません。
まずは対象業務を定め、判断基準を整理し、現場で、「すぐに成果があがった」と実感してもらうこと。そして、評価や育成等に紐づけ、現場で活用される仕組みを設計することが重要です。
今回ご紹介した事例は、「小さく始める」「判断を言語化する」「人事が設計する」という3つが共通しているポイントでした。
人的資本経営時代において、人材の知識や経験を組織資産へ転換することは重要な経営課題です。まずは自社のどこから着手できるかを考えることが、暗黙知の言語化の第一歩となるでしょう。
参加者の声
- 手順書だけでなくKWリストの必要性が身に染みた。
- AI活用が進むと若手の育成の場がなくなるために、ナレッジの可視化が必要だと感じた。
- 手順書とKWリストが同列になっていることが、ノウハウの継承が進まない原因ではないかと思った。
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