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10月18日(水)に新刊『マンガでよくわかる1on1大全』の出版を記念して、著者・世古詞一氏と、リーダー向け書籍を多数執筆している伊庭正康氏のトークイベント「1on1大全~自立型部下と支援型上司が育つ方法~」を開催しました。
第3フェーズに入ったと言われている「1on1」。「部下側に焦点を当てて、部下に主体性をもってもらう」「上司側のコミュニケーションスキル向上」など、双方が考える課題や解決策などをディスカッションしました。トークイベントの内容の一部をご紹介します。
第一部:講話「1on1次なるフェーズの鍵とは」(世古詞一氏)
企業における1on1ミーティングの取組みの変遷
第一フェーズは、日本で1on1が注目されてから2018年までの期間です。「まずは1on1を導入しよう」というところからスタートし、そもそも1on1は何なのかを伝える、なぜ1on1を行うべきなのか(Why)という点を浸透していく取り組みが始まりました。
その後、2019年からを第二フェーズと呼んでいます。1on1を導入したけれども、うまくいかないことに課題を抱える企業が増え、上司向けの啓発を目的とした研修・勉強会を行う企業が増えました。1on1では何のテーマを話せばいいのか(What)、支援型上司になるために傾聴・質問・承認力を強化する(How)ための施策をお伝えしました。
そして、2023年から第三フェーズ。上司だけが1on1を理解していても質の良い1on1にならないことに気づき、部下向けにも啓発を行う流れになりました。どのようにして自律型部下を育成するのか、支援型上司として継続するにはどうすればいいのか(How)など、1on1の取り組みも遷移しています。
自律型部下の1on1での役割・3つのスタンス・5つの成果の関係
効果的な1on1を行うためには、部下は自律的に行動します。「すり合わせ9ボックス(R)」に沿って、部下が話すテーマを準備したり、自ら考え、話すことが大切です。
また、上司は情報・考え・思いを伝え、部下にフィードバックを求め、部下の内面にある考えや気持ちを引き出しましょう。
部下と上司がそれぞれの役割を果たすと、有益な情報獲得、問題/課題の発見・解決、考えの整理・明確化、モチベーションの変化、新たな行動への決意など、効果的な1on1が行えるようになります。
今後の組織における1on1の目指すところ
経営が本腰を入れることが何より重要なことです。人的資本経営、エンゲージメント、パーパス、自律型人材育成、オンボーディング、心理的安全性など、経営人事領域のトレンドは対話を必要としています。すべてのテーマにおいて、1on1による対話機会が重要の役割を果たします。これらの経営(組織・人事)課題と1on1施策が結びついているかどうか、ぜひ見直してみてください。
第二部:世古詞一氏×伊庭正康氏トークセッション
上司や部下育成における対話の課題はありますか?
(世古氏)育成における対話の課題というと、やはり1on1です。対話をする場・機会がなくなっていることが課題です。上司と部下の話す機会というと、情報のやり取りしかしていないことが多いです。自分の考え、思いなど思考をストレッチしたり、考えながら新たなものを生み出すような対話、気づきを促すような対話が少なくなっています。そもそものお互いの背景、バックグラウンドにあるような、経験だったり、その人の価値観などを話す機会が少なくなっていることが課題だと思います。
(伊庭氏)部下の個人のパーソナリティの話題に踏み込むのが怖い、あえて聞かないようにしていると言う声も聞きます。世古さんの「すり合わせ9ボックス(R)」でも「個人」のところを大切にしています。「個人に焦点を当てる」というところに踏み込むには、結構勇気いると思います。
(世古氏)部下によっても、プライベートなことは聞かれたくない人もいます。まずは「週末とか何やってたのとか聞いても大丈夫?」「こういった話は苦手かな?」などと確認することは必要です。部下のスタンスを知ることが相互理解に繋がります。まあ、どんな情報でもあった方が、その部下に対する接し方が分かるので、信頼関係という観点からいっても、情報をお互い知ってる人同士の方が関係も生まれやすいですね。伊庭さんはいろいろな企業で研修を行っていますが、上司が部下に対して、どのようなことで悩んでいるという声を聞きますか?
(伊庭氏)上司の悩みの多くが部下の育成に対して、どう関わっていけばいいのがわからないということに集約できます。表面的にはコミュニケーションが取れないとか、ここまで踏み込んではいけないんじゃないという悩みなのですけれども、リーダーとしての介在価値の持ち方が見えないようです。リーダーとして業務を滞りなく遂行するだけであればできます。しかし、介在価値としては発揮できてないという自分自身の不全感があります。例えば、ある部下をどのように育てたらいいのかということに対して、コミットが曖昧で、関わり方が見えないのです。
上司や部下育成の課題を解決するための施策(=1on1)について考える
(伊庭氏)1on1面談を行うと、確かに部下育成の課題解決ができて、従業員満足度が上がります。しかし、部下とのコミュニケーションを増やしたからといって、必ずしも業績が上がるということでもないですよね。1on1の会話で社内の内向きの話になるので、お客様や事業の成長に繋がるような対外的なトピックスを入れると業績の向上につながるといった課題はでていますか?
(世古氏)私は1on1を実施する目的を5つ挙げています。「信頼関係づくり」「成長促進」「部下の育成促進」「モチベーションのケア」「働きがいの向上」です。組織のことを知っていくことが大切なのですけど、中長期の成果の視点も必要です。目先の成果のことはいつも行っているのですけれども、中長期的に成果を上げていくために、あるいは継続的に成果を上げていくために何が必要なんだろうということを考える必要があります。業界の雑談をするとか、今の流行ってる技術を取り入れるとどんなことできるんだろうねとか、などの話題ですね。緊急性は低いけど重要なことを1on1でも話していただきたいです。
組織における1on1の今後の活かし方
(世古氏)今後の組織における1on1の目指すところというと、経営が本腰を入れるというフェーズがくるのではないかと思っています。大抵、研修を行っているのは、課長職くらいまでの中間層です。部長職以上の研修はあまりやっていません。若い人の方が感度が高くて、研修の業務への役立ち度が高い傾向があります。そこで、ボトムアップで経営陣に1on1の必要性を訴え、経営が動いたケースもあります。
人的資本、エンゲージメント、パーパス、D&IなどHR領域でトレンドとなっていることは、1on1に通じていると思います。
【質問】お二人が大切だと思うマネジメントスタイルは?
(世古氏)心理的安全性、D&I、ハラスメントなど、個の尊重ということは大切だと思います。個人をより尊重していくかという傾向が強くなっている時代です。言葉だけではなく、人としてちゃんと見ていくという姿勢が求められています。そのためには対話を通して、相手のことをしっかりと理解しないといけません。
(伊庭氏)私も個の尊重がとても重要だと思います。方針はトップダウンでいいですが、やり方はボトムアップでやらざるを得ません。そこで、個を尊重して、ボトムアップでもっと意見を引き出していくということにつながります。
【質問】1on1で上司ばかりが話してしまっている。「話を聞き続ける」テクニックは?
(伊庭氏)1つだけ言うと、オープンクエスチョン(拡大質問)が使えるかどうかが大きなポイントです。これに対して、限定質問というクローズドクエスチョン技法もありますが、話を聞き出すには、オープンクエスチョンを使うと、相手の意見や考えを自由に話してもらえるようになります。例えば「どんなことがあったの?」「どうしてどうだったの?」「どのようにやるのがいいのかな?」と聞くと、自分の意見を言うことなく共感しながら聞き続けることができます。
(世古氏)まずは、上司自身が自分ばかりが話していることに自覚することです。おすすめは動画を撮って、振り返ることです。上司が問題意識を持てるようになれば、部下に「私は話し過ぎちゃう傾向があるから、話し始めたら言ってね」と伝えていくのも良いでしょう。
- 部下側のフォローは盲点でしたし、上司の負荷は色々なところで言われていますが、部下側を充実させることでその負荷を低減できることは目から鱗でした。
- 1on1の次のフェーズが部下へのアプローチと言う部分は当社の課題に合致しましたし、なるほどと思いました。
- 部下のための時間という原理原則に立ち返ることという点が印象に残りました。
- 早速、1on1大全を購入いたしました。1on1のやり方がモヤモヤしている社員に対して事例を示すことに苦労していたので本が届くのが楽しみです。
- 部下側への啓発の必要性。まだまだ上司への啓発も必要なのだが、形骸化するまえに部下側にも啓発を始めるのがよいのではと思いました。
- 月1回30分の時間を取るのは難しいという意見が大半で、当社では1on1の普及がなかなか進みません。マネジャーに求められる役割が多すぎて潰れてしまったり、マネジャーを目指す人が少なくなってしまう現状があります。改善が急務です。
- 講師ふたりのコメントが具体的で打ち手になりそうな内容が多く参考になりました。
- 経営人事領域のトレンドは、対話を必要としている。
- 伊庭さんのYouTube、世古さんの1on1大全を読もうと思います。うまくいっている部署にアプローチして、事例として社内に展開していくことができていないので、取り組みたいですが、まずどこの部署が1on1でうまくいっているのかを調べるとこから始める必要がありそうです。
- 「部下観点(自律型)の1on1アプローチ」の内容はこれまで余り認知しておらず、本日の内容は参考となりました。
- “上司と部下が一緒に1on1を作っていく”という概念がなかったので、ちょっと驚きました。部下も一定の役割を担うということは、それに見合った成果が実感できないと、部下は二度と1on1をやらなくなるのではないかと感じたところです。