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多くの企業でキャリア面談やキャリア研修、FA制度、1on1などのキャリア支援施策が導入されています。
一方で、「制度はあるが活用されない」「面談が形骸化している」「社員がキャリアの目標を語れない」といった課題も少なくありません。
2026年7月7日に開催したオンラインセミナーでは、株式会社カイラボ代表取締役・井上洋市朗氏を講師に迎え、社員のキャリア自律を支援するうえで重要な「キャリアの軸」の考え方と、思考タイプ別の支援アプローチについて解説しました。
本レポートでは、セミナー内容の一部をもとに、キャリア支援がうまく機能しない背景と、人事・管理職が実践できるキャリア自律支援のポイントをご紹介します。
キャリア支援施策が機能しないのはなぜか
キャリア自律が求められる時代になった
キャリア面談や1on1、キャリア研修など、社員のキャリア自律を支援する施策を導入する企業が増えています。背景には、人的資本経営への注目や人材の流動化などがあり、社員自身も「自らキャリアを考え、主体的にキャリアを築きたい」と考える人が増えています。
一方で、制度を導入しただけではキャリア自律は実現せず、施策をどのように運用するかが重要な課題となっています。
制度があっても成果につながらない企業が多い
「定期的にキャリア面談を実施している」「キャリア研修も行っている」。それでも、「社員が本音を話してくれない」「面談が目標確認だけで終わってしまう」「研修後の行動変化が見えない」といった声は少なくありません。
人事担当者や管理職はキャリア支援の重要性を理解していても、社員一人ひとりの状況に応じた関わり方が分からず、施策が形骸化してしまうケースも多く見られます。
キャリアの「目標」から考えることが難しさを生んでいる
キャリア面談では、「将来どんな仕事がしたいですか」「5年後の目標はありますか」といった問いかけが行われることが少なくありません。
しかし、実際にはキャリアプランを明確に描けていない社員は半数以上という調査結果もあり、「やりたいことが分からない」という状態は決して珍しいことではありません。
目標を前提にした支援だけでは、こうした社員の本音を引き出すことは難しく、まずは本人が大切にしたい価値観や判断基準、つまり「キャリアの軸」を言語化することが重要なのです。

キャリアの目標より先に、「キャリアの軸」が必要
キャリア面談やキャリア研修では、「5年後にどうなっていたいですか」「どんなキャリアを目指していますか」と、将来の目標を考える場面が少なくありません。
しかし、将来像が明確になっていない社員にとって、この問いに答えることは決して簡単ではありません。
そこで重要になるのが、「キャリアの軸」です。目標を考える前に、自分が何を大切にしたいのか、どのような価値観を持って働きたいのかを言語化することが、主体的なキャリア形成の第一歩なのです。
キャリアの軸とは何か
キャリアの軸とは、自分のキャリア形成において中心となる考え方や、意思決定の判断基準となるものです。
異動や昇進、新しい仕事への挑戦など、キャリアにはさまざまな選択の場面があります。そのとき、「自分は何を大切にしたいのか」という軸が明確になっていれば、一つひとつの選択に納得感を持つことができます。
キャリア形成では目標ばかりに注目しがちですが、その前に「どんな価値観を持って働きたいのか」という軸を明確にすることが重要です。
「内的キャリア」と「外的キャリア」の両方を考える
キャリアの軸を考えるうえでは、「内的キャリア」と「外的キャリア」の両方の視点が欠かせません。
内的キャリアとは、仕事のやりがいや働く意味、大切にしたい価値観など、自分自身の内面にあるものです。一方、外的キャリアとは、役職や職種、年収、経験、資格など、周囲から見ても分かるキャリアを指します。
どちらか一方だけを追い求めるのではなく、「自分は何を大切にしたいのか」と「どのような経験を積みたいのか」の両方を整理することで、自分らしいキャリアの軸が見えてくると言えます。
キャリアの軸があることで主体的なキャリア形成につながる
キャリアの軸が明確になると、異動や昇進、新しい仕事への挑戦といった出来事も、自分の価値観に照らして判断できるようになります。
会社から与えられたキャリアを受け身で受け止めるのではなく、自ら選択し、納得して行動できるようになるのです。また、キャリア面談でも自分の考えを言葉にしやすくなり、上司との対話も深まります。
キャリア自律とは、自分ひとりで考えることではありません。自分自身のキャリアの軸を持ち、その軸をもとに主体的に意思決定していくことが、充実したキャリア形成につながるのです。
思考タイプによってキャリア支援は変わる
キャリア支援がうまくいかない理由の一つは、すべての社員に同じアプローチをしてしまうことです。
「目標を立てましょう」「やりたいことを考えましょう」という方法は、一部の社員には有効ですが、すべての人に当てはまるわけではありません。
人によってキャリアの考え方や置かれている状況は異なります。だからこそ、相手の思考タイプに合わせて支援方法を変えることが重要なのです。
キャリア思考を4つのタイプで考える
キャリア思考は、「やりたいことが明確かどうか」と、「内的キャリア・外的キャリアのどちらを重視しているか」という2つの軸で整理できます。
「キャリアには目標がある人もいれば、まだ見つかっていない人もいる」という前提に立ち、それぞれに適したアプローチを考えるのが、この4タイプの考え方です。どのタイプが優れているということではなく、人はキャリアやライフステージの変化に応じて、さまざまなタイプを行き来しながらキャリアを形成していきます。

タイプ① 想い言語化タイプ
「やりたいこと」は明確でも、その背景にある価値観や想いを十分に言葉にできていない状態です。
このタイプは、目標だけを追いかけるのではなく、「なぜその仕事をしたいのか」「何を大切にしているのか」を言語化することが重要になります。価値観を整理できると、自分の考えを周囲に伝えやすくなり、キャリアの方向性にも一貫性が生まれます。
人事や管理職は、結論だけを聞くのではなく、「なぜそう考えるのか」を問いかけながら、本人の想いを引き出す対話を意識するとよいでしょう。
タイプ② 行動具体化タイプ
やりたいことが明確で、外的キャリアも重視している状態です。このタイプは、一般的なキャリアデザインや目標設定との相性がよく、目標から逆算して行動を考える「バックキャスト」の考え方が有効です。
人事や管理職は、目標そのものを一緒に考えるよりも、「目標を実現するために何を経験するか」「どのようなスキルを身につけるか」といった具体的な行動まで落とし込む支援が求められます。
タイプ③ 業務効率化タイプ
やりたいことがまだ明確ではなく、内的キャリアを重視している状態です。
このタイプに対して無理に「やりたいこと」を探そうとすると、かえって負担になってしまいます。まずは目の前の仕事を進めやすくしたり、業務を効率化したりすることで、心理的・時間的な余裕をつくることが大切です。
人事や管理職は、将来の目標を急がせるのではなく、「今の仕事で困っていることはないか」「もっと働きやすくするにはどうしたらよいか」といった視点で対話を進めることが有効です。
タイプ④ 判断基準形成タイプ
やりたいことが明確ではなく、外的キャリアを重視している状態です。
このタイプは、無理に将来の夢や目標を描こうとする必要はありません。まずは仮置きでもよいので定量的な目標を設定し、その経験を積み重ねながら、「自分は何を大切にしたいのか」という判断基準を少しずつ見つけていくことが重要です。
人事や管理職は、すぐに答えを求めるのではなく、小さな成功体験や経験の振り返りを通じて、本人が納得できるキャリアの軸を一緒に育てていく姿勢が求められます。
キャリアの軸を言語化する3つの質問
では、自分のキャリアの軸はどのように見つければよいのでしょうか。
「キャリアの軸」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、特別な自己分析から始める必要はありません。これまでの経験や意思決定を振り返ることで、自分が大切にしてきた価値観や判断基準が見えてきます。
社会人になった頃の価値観を振り返る
まず振り返りたいのは、社会人として最初の一歩を踏み出した頃の自分です。「会社や仕事を選ぶとき、どのような基準で意思決定をしたか」を思い出してみると、その当時から大切にしていた価値観が見えてきます。
仕事内容を重視したのか、成長できる環境を求めたのか、安定性を優先したのか。選択の理由を振り返ることで、自分らしいキャリアの軸を探るヒントになります。
最大の試練から価値観を見つめ直す
次に、社会人になってから経験した困難を振り返る問いです。
困難な出来事には、その人らしい考え方や行動が表れます。試練そのものではなく、「どのように考え、どのような行動を取ったのか」を振り返ることで、自分が大切にしている価値観や、困難な状況でも譲れない判断基準が見えてきます。
充実していた経験から「自分らしさ」を探る
最後は、仕事にやりがいを感じた経験を振り返る問いです。成果を出せたときなのか、人に感謝されたときなのか、新しい挑戦ができたときなのか。充実感を覚えた理由を掘り下げていくと、自分が仕事に何を求めているのかが見えてきます。
①社会人になったころの価値観、②社会人になってからの最大の試練、③社会人になってからもっとも充実していた経験の3つの質問を通して共通する価値観を整理することで、自分らしいキャリアの軸を言葉にできるようになるのです。
また、キャリアの軸をさらに深く考えるヒントとして「キャリアアンカー」が有効です。キャリアアンカーとは、「どうしても譲れない価値観」を整理する考え方で、「専門能力」「経営管理」「自立」「安定」「起業家」「社会貢献」「チャレンジ」「調和」という8つのタイプがあります。どのタイプが優れているということではなく、自分がどの価値観を大切にしているのかを客観的に捉えるためのフレームワークです。
これまでの人生を振り返り、「なぜその選択をしたのか」「どんな場面でやりがいを感じたのか」とキャリアアンカーを照らし合わせることで、自分自身でも気づいていなかったキャリアの軸を言語化しやすくなります。
人事・管理職が実践したいキャリア支援
キャリア支援では、「社員に答えを教える」ことが目的ではありません。一人ひとりが自分の価値観や考え方を整理し、自分自身で納得できるキャリアを選択できるよう支援することが重要です。
そのためには、人事担当者や管理職の方も、これまでとは少し異なる関わり方が求められます。
キャリア面談では「答え」を引き出そうとしない
キャリア面談では、「将来どうなりたいのか」「目標は何か」と答えを急いで求めてしまいがちです。しかし、キャリアの軸がまだ整理できていない社員にとって、その問いに正解はありません。
大切なのは、答えを引き出すことではなく、社員自身が考えを整理できる対話を重ねることです。「なぜそう思うのか」「どんな経験がそう感じさせたのか」と問いを重ねることで、本人も気づいていなかった価値観や判断基準が少しずつ言葉になっていきます。
キャリア面談は評価の場ではなく、自分自身を見つめ直す機会として捉えることが重要です。
思考タイプに合わせて問いを変える
すべての社員に同じ問いを投げかけても、良い対話になるとは限りません。すでにやりたいことが明確な社員には、その実現に向けた行動を具体化する問いが有効です。
一方で、まだ目標が定まっていない社員には、将来の姿を無理に描かせるよりも、これまでの経験や価値観を振り返る問いの方が、自分らしいキャリアの軸を見つけやすくなります。
キャリアの言語化を組織全体で支援する
キャリアの言語化は、社員個人だけの取り組みではありません。人事制度やキャリア研修、1on1、キャリア面談など、さまざまな施策の中で継続的に取り組むことで、組織全体に浸透していきます。
社員が自分のキャリアを言葉にできるようになると、面談の質が高まり、異動や配置にも納得感が生まれます。また、管理職も部下の価値観を理解しやすくなり、一人ひとりに合わせた育成やキャリア支援が行えるようになります。
キャリアの言語化は、社員のキャリア自律だけでなく、組織全体の成長にもつながる取り組みなのです。
パート2:質疑応答(Q&Aセッション)
講師:井上洋市朗氏
ファシリテーター:株式会社かんき出版 HRソリューション事業部 チーフコンサルタント 初谷 純
初谷― 企業様からいただいたご質問です。
これから自社でキャリア研修を導入しようと考えています。全社一斉に導入するよりもスモールスタートが良いかと思うのですが、まずは、どの階層、または年齢層から始めるのが、一番効果や成功事例を実感しやすいでしょうか?
井上氏― 管理職層から取り組むことをおすすめしています。
その理由は、管理職がキャリア支援の考え方を理解していなければ、部下が研修で学んだ内容を職場で活かしにくくなるためです。例えば、部下がキャリア研修を受講しても、現場で「そんなことより成果を出そう」と否定されてしまえば、学びは定着しません。
特に、営業や製造、施工など、事業の中核を担う現場の管理職から取り組むことで、キャリア支援の考え方が組織全体へ広がりやすくなります。管理職自身がキャリアを考える経験を持つことで、部下との対話の質も高まり、キャリア自律を支援する文化が組織に根付いていくと言えます。
初谷― 続いていただいたご質問です。
新入社員の入社直後にキャリア研修を実施する企業があると聞いたことがあります。それらの企業は、どのような狙いで入社時に教育機会を設定しているのでしょうか?
井上氏― 近年では、入社直後の新入社員研修にキャリア研修を組み込む企業も増えています。
その狙いは、会社から「自らキャリアを考え、主体的に成長してほしい」というメッセージを早い段階で伝えることにあります。
もちろん、メッセージを伝えるだけでは十分ではありません。自分はどのようなキャリアを築きたいのか、そのためにどのような経験や学びが必要なのかを考える機会を設けることで、社員は主体的に行動しやすくなります。
例えば、将来海外で活躍したいと考える社員であれば、その実現に向けて語学力を高める必要があることに自ら気づき、学習への動機づけにつながります。このように、入社直後は会社からのメッセージが伝わりやすい時期だからこそ、キャリア自律の考え方を育む絶好のタイミングだと思います。
まとめ|キャリア支援は「目標設定」から「軸の言語化」へ
これまでのキャリア支援では、「将来の目標を決めること」が重視される場面が多くありました。しかし、将来像が明確でない社員にとって、目標設定から始めることは簡単ではありません。
だからこそ、まずは「自分は何を大切にしたいのか」というキャリアの軸を言語化することが重要です。軸が明確になることで、目標や行動にも納得感が生まれ、自分らしいキャリアを主体的に描けるようになります。
キャリアの軸がキャリア自律と組織の成長につながる
キャリアの軸を言語化できる社員が増えることで、キャリア面談や1on1は「目標を確認する場」から、「社員の価値観や可能性を引き出す場」へと変わっていきます。
その積み重ねは、社員一人ひとりの主体的なキャリア形成だけでなく、エンゲージメントの向上や適材適所の配置、管理職の育成力向上など、組織全体にも大きな効果をもたらします。
かんき出版では、本セミナーで紹介した考え方をもとに、「キャリアの言語化研修」をご提供しています。「キャリア支援を実施しているものの成果につながらない」「キャリア面談の質を高めたい」とお考えの企業様は、お気軽にご相談ください。
参加者の声
- キャリアの軸はとても大事だと思った。支援の際に取り入れていきたい。
- 簡潔でわかりやすい説明と納得感のある内容だった。
- 4タイプにより関わり方や働きかけ方が変わるという点が印象的だった。
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